婚約破棄で私を捨てた彼とその相手の女性は池に落ち……。
その日、私は、ある池の近くに呼び出された。
なぜそんなところに呼び出されたのだろう?
そう思っていたのだが。
呼び出されてもなお謎は謎のままで――しかし、婚約者の彼ルリッシュが何を告げようとしているのかは大体想像できた。
というのも、彼の隣には一人の女性がいたのだ。
婚約者の横に女性。
そして呼び出された。
それが意味するところ――何となくではあるが読める。
「あの、用とは……?」
「ああ実は言いたいことがあってな」
「何でしょうか」
「お前との婚約なのだが、破棄とすることにした」
女性はルリッシュの腕に細めの両腕を絡めている。
「婚約、破棄……」
「そういうことだ。ま、これを見れば分かるだろ?」
「まぁ、そうですね……確かに、想像はできます」
「じゃ、そういうことなので。じゃあな、ばいばい」
ルリッシュはくるりと進行方向を変えて去っていく。
刹那、ルリッシュの隣の女性がてててとこちらへ近づいてきて――。
「貴女は要らないのよっ」
女性が突き飛ばしてくる。
私は咄嗟に避けた。
突き飛ばした勢いのまま、女性は池に転落。
「きゃあ!」
池に落ちた女性。ルリッシュが慌てて駆け寄る。が、助けようと手を伸ばしかけた瞬間、彼もバランスを崩してしまって。ルリッシュも女性と同じように池の中へ落ちてしまった。
「きゃあああ! 助けてぇぇぇぇぇ!」
「うわぉわわわわわ!」
結果、ルリッシュと女性は、ワニの餌となった。
そうね、もう、共には行けない――だって、婚約も結婚も、命あってこそのものだもの。
思いながら、私はその場から離れた。
◆
池の一件から数ヶ月、昔よく通っていた喫茶店に久々に通うようになった私は、そこで同じく常連客である男性と知り合う。
そして彼と結婚するに至った。
一人通っていた喫茶店にも、今では、二人で通う。もちろん、それぞれが行きたい時に行く、ということもあるのだけれど。それだけではなくて、二人で行くことも多い。
◆終わり◆




