赤い瞳は悪魔の生まれ変わり? まさか! 違います。ただこういう目の色なだけです!
「お前のその赤い瞳、不気味としか言い様がない。母が言うには、赤い瞳を持つお前は、悪魔の生まれ変わりだそうだ。ということで! お前との婚約は破棄とする!!」
婚約者オーライは、ある日の昼下がり、自宅にわざわざ私を呼び出してそう告げてきた。
彼は何やら勝ち誇ったような顔。
なぜそんな顔をしているのか謎でしかない。
「婚約破棄? 本気ですか?」
「ああ。穢れた呪われた血を我が家に入れることはできないからな」
「……何を根拠にそのようなことを」
「瞳だ! その、血のような、赤い瞳!!」
「確かに赤い目は珍しいです。が、それが悪いものだという根拠はあるのですか? あるなら、まずは、それを説明してください」
すると彼は声を荒くし、「うるさい!」とか「出ていけ!」とか喚き、さらには私を両手で突き飛ばしてきた。
「早く出ていってくれ! 穢らわしい!」
「……失礼な人ですね」
「はぁ? 舐めるなよ! 馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿! さっさと出ていけ気味悪いくそ女! 少し珍しい色の目を持っているからって調子に乗るな! 女なんかなぁ、男に下品に媚売って男の便所になってりゃいいんだよ! どうせそれしか使い道なんぞないんだから! そんな簡単なこともできねぇ赤目の化け物は消え失せろや!」
感情的になっているオーライは失礼な言葉ばかり並べる。
もうやっていられない。
そう思ったので。
私はその場から速やかに去ることにした。
そもそも私は人間だ。奴隷でも便所でもない。女だとしても、だ。女でも人間なのだ、人間として扱われない場所に留まる気など一切ない。人間として扱われないなら死ぬのと同じこと、いや、死ぬ方がずっとずっと美しく幸せだろう。
もうオーライとは関わらない。
他人になろう。
彼もそれを望んでいるのだし。
◆
その後私は、その赤い目を持っていたために隣国の王子に見初められ、彼のもとへ行くことを選んだ。
聞いた話によれば。
隣国では、赤い瞳の持ち主は神の生まれ変わりとされ、大切にされるものらしい。
「貴方が来てくれて嬉しいよ」
「いえ……」
生まれた国から去るというのは少々切なくもあるけれど。
でも行く道の先に明るい未来があるなら。
新たなる世界へと踏み出すのも悪くはないのかもしれない。
「大丈夫? 体調悪い? 元気がなさそうだけど……あっ、もしかして、僕と結婚するのが嫌だった?」
「そ、そんな! そんなこと! ありません!」
「本当?」
「はい。本当です。必要とされて嬉しかった、その気持ちに偽りはありません」
「なら良かった。……無理矢理になってしまったかと」
「声をかけてくださってありがとうございます」
こうして私は進む。
幸せな、光ある、未来へと。
ちなみにオーライはというと、あの後『赤い女神』という恐ろしい存在が見えるようになってしまって眠れなくなり、ある朝急に死亡していたそうだ。しかも、夜にいたはずの自室のベッド上ではなく、自宅の便所にて亡くなっていたのだそう。彼の亡骸は便所で発見され、あたりには血液ではない赤い謎の液体が垂れていたとのこと。
そして、息子をそのような形で失ったことでオーライの母親も精神崩壊し、一日中暴れまわるような状態になったらしく。それによって離婚という形で夫に捨てられ、実家へ戻るも親からも嫌がられ、山に捨てられたらしい。結果、そのまま飢え死にしたと見られているとのことだ。
◆終わり◆




