料理を作ってほしいと言われたので作って出してみたところ婚約破棄されました。
「お前ってさぁ、料理とかできる?」
ある日のこと、一緒に過ごしていたら、婚約者の彼ルレイが質問してきた。
「ええ、少しだけ」
「へぇ~! できればちょっと作ってみてくれね?」
「え、どうしたの急に」
「いや、ただ、食べたいなーって思ってさ」
私は料理人ではない。ただ、料理をしたことがないというわけではないので、やろうと思えばできる。前に親に作ってみた時には褒められた、それゆえ、驚くほど美味しくないということはないだろう。
「じゃあ作ってみるわね?」
「え! いいの!」
「ええ」
「マジ!? よっしゃあ! じゃ、よろしくぅーっ!」
で、翌日、料理を作っていってルレイに出したのだけれど。
「まず」
一口食べて、彼はそう言った。
冷ややかな視線を向けてくる。
「最悪だわ。婚約、破棄するわ」
投げられたのは心ない言葉と視線。
胸を射られたかのように。
見えないものだが心に激痛が走ったような感覚があった。
「え……そんな、ちょ……待って、どうして……」
「婚約は破棄。いいな? じゃ、さよなら」
「お願い! 何がどう駄目だったのか、せめてそれだけでも教え――」
「うるせえよ、消えろや」
こうして私は切り捨てられた。
この瞬間ほどショックだった瞬間を、私は知らない。
◆
料理を出したことで婚約破棄されてしまった私だったが、その後親戚のおじさんが営む本屋で手伝いをしていたところ一人の常連客の男性と仲良くなり、やがてその男性と結婚することとなった。
結婚できるのは嬉しくて。
でも怖さもあった。
料理は避けては通れない部分だったから。
仲良しだけど他人、であれば、手作り料理を出す機会はない。けれども、実際に結婚したとなれば、食事の用意もしなくてはならないだろう。だからそれだけが嫌で、心が重かった。
でも。
「美味しい! 最高だよ、これ!」
恐る恐る、初めて料理を出した時、夫となった彼は大層喜んでくれて。
嬉しそうな、活き活きした、彼の声と言葉を耳にしたら。
胸に在った闇が晴れてゆくようで。
重苦しかったものが消えていくような気がして。
「ありがとう。……嬉しい、そう言ってもらえたら救われるわ」
夫である彼は私の料理を嫌がらなかった。
不味いとは言われなかった。
何よりも嬉しかった。
◆
結婚から五年、今も夫とは仲良しだ。
先月第一子が生まれたので今はその世話で非常に忙しい。それゆえ夫と二人で語らう時間はほとんどない。が、それでも夫は怒らないし、むしろ私を見守ってくれている。時にはできる範囲で協力してくれることもある。
ちなみにルレイはというと、あの後一人の美女と結婚したそうだが、結婚初日に食べさせてもらった料理が不味すぎて失神しそのまま亡くなった――というのは間違いで、本当のところは料理に毒を入れられていたそうだ。
ルレイはその毒によって死んでしまったのだ。
彼の妻となったその女性の狙いは、彼そのものではなく、彼の資産だったようだ。
◆終わり◆




