国王で婚約者の彼から婚約破棄を告げられました。~その後誘いがあったので魔王の妻になりましたが、穏やかに暮らせていて幸せです~
「お主との婚約は破棄とする!」
青い空が悲しくなるほどに美しかったその日、私は、一国の王である男性リリガオンから婚約の破棄を告げられた。
「え……そ、それは一体、どういう……話、で……?」
いきなり過ぎて脳が追いつかない。
「婚約は破棄、と言っておるだろう。聞こえなかったのか。どうやらかなり耳が遠いようだな。やはりお主は我に相応しくない」
いや、耳が遠いわけではないのだ。
聞こえてはいる。
言葉そのものは。
ただなぜそんなことを言われているのかが理解できないのだ。
「え、えと、あの……耳が遠いとかではないですが……」
「婚約破棄と言っておるのだ! ……分かったか? 分かったなら去れ。今すぐにな。それをしないというのなら容赦はしない、我はお主を死刑にすることも躊躇いはしないのだ」
死刑、て。
さすがに過激過ぎる……。
「しょ、承知しました。つまり、去れば良いのですね?」
「ああそういうことよ」
「分かりました。ではこれにて。さようなら」
「ああ」
死刑にされるのは嫌だ。
だから私は彼の言葉に従い去ることにした。
しかし、これからどうしよう……。
婚約破棄された私にできることなんてあるのか?
もしあるとしてもどうやって見つければ良いのだろう?
何を目指して生きてゆけば良いのか分からない。
◆
婚約破棄された直後、私の前に一人の男性が現れた。
その人は魔族の血を引く者らしく、彼は私に「魔族の王の妻となってほしい」と頼んできた。
私はその時の勢いでそれを受け入れた。
で、まさかの展開だが、魔王の妻となった。
こんなことになるなんて、と思いながらも、私は魔族の国へ移り住む。
そして、魔王の妻として生きてゆくこととなった。
魔王城に住み、時折魔王と交流し、他は自由時間――魔王の妻の暮らしというのはそんな暮らしである。
いや、なかなか悪くない。
自由時間が多いのは嬉しい。
好きなように暮らせるから。
それに、世話付きなのもいろんな意味でありがたい。
魔王も意外と優しいし。
◆
あれから二年三ヶ月、リリガオンが死んだという話を聞いた。
私が去った後、あの国は近隣諸国と揉め、その結果戦うことになってしまったそうだ。複数の国と戦うこととなってしまい、やがて国は敗北。敗戦国の長となった国王リリガオンは処刑され、その資産も敵国の人間たちにすべて吸い取られてしまったそうだ。
あの国はもう存在しない。
ちなみに私はというと、今も、魔族の国にて優雅に穏やかに暮らせている。
魔王の傍にいる。
それだけで手に入る平穏。
私はこれを守り続けたい。
◆終わり◆




