北の村で生まれた私は婚約破棄されたうえ皆から虐められたので村から出ていくことにしました。
北の村で生まれた私は、その村のことが嫌いではなかったので、この先もずっと生まれ育ったその地で生きていくものと思っていた。
しかし。
「お前みたいな大金持ちじゃない女、やっぱ無理だわ。てことで、お前との婚約は破棄な。いいな? 言ったからな? じゃ、そういうことで」
婚約者ルルノスからそう告げられてしまったことで私の北の村での人生は終わってしまった。
婚約破棄された私は両親から「恥晒しは消えろ」などと言われたうえ、近所の人たちからは「婚約破棄される女性なんて、みっともないわね。きっと浮気でもしていたのでしょうね」などと偽りの情報で悪口を言われてしまって、気づけば居場所を失っていて。
もうここで生きてはゆけない――そう察した日の夜、私は簡単にだけ荷物をまとめ、黙って村を飛び出した。
婚約破棄されただけでどうしてそこまで言われなくてはならないの?
私は何もしていないのに。
ルルノスの気まぐれに付き合って差し上げただけなのに。
私は悪くない。なのに責められるのは耐えられなかった。そんなことをされるくらいなら、これまでの人生を捨てることになったとしても、離れたどこかで生きてゆく方がまし。そう思ったからこその家出、いや、村出……のような行動だった。
その後私は都へ出た。
そこで数年働き、仕事の中で出会った男性と結婚、都にて家庭を築いた。
欲しいものを手に入れることができ続けた私は運が良かったのだろう。
誰もが都に出ただけで幸せになれるわけではない。
枯れた花のように踏まれ風と共に飛び去るように消える者だっているのだ。
でも私には幸せが待っていた。
この道を選んだことを悔いることはないだろう。
きっと永遠に。
むしろこの決断にいつまでも感謝し続けるだろう。
ちなみに、北の村はあの後少しして隣国の侵攻の舞台となったようで。敵国の兵たちに蹂躙されたようだ。聞いた話によれば、今はもうあの村には誰もいないらしい。数人は逃げ出した者もいたようだが、ほとんどの村人が村の中で滅びゆくこととなったらしい。
両親も亡くなったのだろうか……。
ルルノスもきっと……。
でも、それでも、後悔はない。
そこに私がいたところでどのみち何も変えられなかっただろう。
ならばここで生き延びている方が有意義なはずだ。
◆終わり◆




