私をずっと虐めていた妹は王子と婚約しご機嫌でしたが……どうやらお金のことでやらかして婚約破棄されてしまったようです。
私には妹がいる。
彼女はとても可愛らしい容姿の持ち主なのだが、その一方で姉である私へは敵意を抱いており、ことあるごとに私のことを虐めてきた。
いつから虐められ始めたのかは覚えていない。
ただ、彼女が少し独立した意識を持つようになった頃には既に、色々な嫌がらせを受けていたような気がする。
すれ違いざまにぶつかってきておいて姉に意図的にぶつかられたと皆に言いふらす。
自分で自分の服を汚しておいて姉に汚されたと親に言い新しい服を購入してもらう。
そのくらいのことは日常茶飯事。
そんな妹――エリフィリエアは、先日、王子と婚約した。
彼女はずっと権力を欲していた。
だから王子と婚約できてとてもご機嫌で。
その日だけは虐められなかったくらい。
だが、ある日、エリフィリエアは号泣して家へ帰ってきた。
「どうしたの!? エリフィリエア!?」
「お母様ぁ……婚約、破棄、されてぇ……もう帰れ、ってぇ……」
「婚約破棄!?」
「きっと、きっと、お姉様のせいだわ……お姉様があの人に嘘を吹き込んだのよ……彼、騙されて……それで、婚約破棄とか、ぁ……」
危うく婚約破棄まで私のせいにされるところだったが。
王子がその理由を国民向けに発表したことで親は少しだけ私を疑わなくなった。
どうやらエリフィリエアが王子の名で勝手にお金を使っていたことが婚約破棄の理由のようだ。
というか、自業自得ではないか。
王子の名で勝手にお金を使う。
そんなのは犯罪みたいなものだ。
他人の力を利用し他人のふりをして金を使う、そんな行為、そう易々と許されるものではない。
その後、エリフィリエアは心を病み、自室から出られないようになった。
毎日泣いていた。
そんな彼女に私は毎日お手製の激辛スープを出してあげた。
「どうぞ。今日も作ってきたわ、美味しいスープ」
毎日笑顔で差し出す。
「飲んでね。あ、気は遣わないで。姉として当然のことをしているだけだから」
来る日も、来る日も、同じスープを贈る。
「一滴も残さず飲んでちょうだいね。器が空っぽになっているのを楽しみにしているから。あ、残っていたりしたら――その時はこの前みたいにまた大切な物を奪うからね」
悪女でもいい。
仕返しできるなら。
そんな風にして暮らしていたある朝。
エリフィリエアは自ら死を選んだようで、ベッドの上で血の色が一切ない亡骸となっていた。
その後私は近くの街で働き始めた。
そして街で出会った青年と仲良くなり結婚した。
あれから実家へは戻っていない。
でも、もう、あそこへ戻る気はないのだ。
あそこには過去の悲しみと痛みだけがある。
私はそこへは帰らない。
あの日々の悲しみ、あの日々の痛み、すべてはあそこに置いたまま。
捨てたのだ。
◆終わり◆




