婚約破棄を告げられましたが――その日の晩、女神なる存在から、特別な存在と言われまして。
「お前みたいな平凡な女と一生を終えるなんて俺は絶対に嫌だ! よって、婚約は破棄する!」
婚約破棄。
それを告げられる日はいきなり訪れた。
婚約者リリカエイは急に私を自宅の庭へ呼び出しそう宣言してきたのだ。
色々聞きたいことがあったので質問しようと思ったのだが、リリカエイはそれを許さず、強制的に私を追い出した。
婚約は破棄でもいい。
ただ、気になることに関してだけ、少しでも良いから教えてほしい。
そんな小さな望みすら叶わずじまいだ。
――だが、その日の晩、私の前に女神だという女性が現れて。
「貴女は国のために生きるのです。リリカエイ、彼と生きていて良いほど一般的な女性ではありません。貴女は特別な存在です。迎えが来たなら城へ行きなさい、そして、国のために生きると誓うのです」
その時は意味が分からなかったのだが。驚いたことに、翌朝、城から遣いがやって来て。それによってあれが幻ではなかったのだと理解した。おかしな夢でもみていたのだろう、と思っていたけれど、あれはどうやら現実だったらしい。
その後、私は国からも聖女と認定され、正式に聖女として働くこととなった。
聖女へは国から給料が出る。
しかもそこそこ良い額。
一般人なら一年くらい過ごせるような額が一カ月の給料として支払われる――ただし、自由はほぼ失うこととなるのだけれど。
私が聖女となったことを知ると、リリカエイは再び接近してきて。
「やり直さないか?」
そんなことを言ってきた。
「聖女なら俺に相応しい。今のお前になら価値がある。俺のところへ来てくれ、帰ってきてくれ、お前は元々俺のものだ」
正直不愉快だったので。
「お断りします」
はっきりと拒否しておいた。
曖昧にしていたら勘違いされそうだから。
相手を傷つけるのが嫌でつい柔らかな表現にしようとしてしまうものだけれど、状況によってははっきりと言わなくてはならない時もあるのだ。
その後私は聖女として働き、王子と結婚した。
王子との結婚後、しばらくリリカエイからストーカーのような行為を繰り返された。が、それには夫である王子が堂々と対処してくれ、やがてリリカエイを拘束することにまで成功した。その後、リリカエイは執拗に「あの女は俺のものなんだよ!」とか「返せよ!」とか主張し、それによって王子に嫌われ処刑された。
リリカエイのいなくなった世界で、私は王子と生きてゆく。
国を護り、国を導く。
私はその一つの柱となるのだ。
◆終わり◆




