呼び出され婚約破棄され、しかしその直後にある出来事が。~祈り続ける、未来を歩む者たちの幸福を~
その日私は婚約者オガに呼び出された。
彼の家は私の家から離れている。
数時間かけないと行けないような距離だ。
「よく来たな」
「はい。それで、用とは何でしょうか? 急ぎ……なんですよね?」
頑張ってここまで来たのだ、残念な用でないことを祈る。
「婚約についてだ」
「はい……」
「お前との婚約なのだが、破棄とすることにした」
衝撃が脳を揺らす。
それは、婚約を破棄する、ということ――?
「え」
思わず意図しない小さく低い声が漏れてしまった。
「お前のことも嫌いではなかった。だが、もっと素晴らしい女性に出会ったのだ。彼女はとても美しく、振る舞いも見事、まさに淑女といった雰囲気の女性なんだ。彼女に比べればお前なんぞ便所の飛沫。そう聞けば俺がどちらを選ぶかくらい分かるだろう? それが分からないほど愚かではないだろう? ま、そういうことだ。ということで、お前との婚約は破棄だ。分かったか?」
すぐには言葉を返せない。
ただ息が漏れるだけ。
脳内は乱れきっていて状況に相応しい言葉を瞬間的に見つけることなどできない。
その時、突如、窓の外が赤く光った。
何事!?
そう思いそちらへ目をやる。
次の瞬間、世界が真っ赤に染まった。
何が起きたの――!?
薄れゆく意識の中、そんなことを思う。
◆
次に気づいた時、私は、知らない病院にいた。
でも私は生きていた。
息をしている、目が見える、音が聞こえる。
何も失ってはいなかった。
「驚いたわ、貴女――まさかあの状況で無事だなんて」
「あの、これは一体……」
「魔力凝縮型砲弾が落ちたのよ。貴女の近くに男性もいたでしょう?」
「あぁはい……多分、そうです……」
「彼なんて、命を落としていたのよ。なのに貴女は無事だった――とても信じられないわ、神様の力かしらね」
私は生き延び、彼は死んだ。
不思議なことだ。
同じところに同じようにいたのに。
でも、もうオガに会わなくて済むと思ったら少し嬉しい部分もあった。もちろん彼が亡くなったことは残念に思うけれど。でも、それでも、ただ残念なだけじゃなく、ただ悲しいだけでもない。もう婚約破棄とか言われなくて済むこと、それは嬉しいのだ。もう彼の言葉によって傷つかないで済むのが何よりもの喜び。
その後、暫し入院し、退院後は孤児院で働き始めた。
◆
あれから五十年以上、もうじき私は死ぬ。
年を取り過ぎた。
命の終わりは近い。
それでも――可愛い子たちに囲まれている今はとても幸せで。
この子たちが生きてゆく未来が明るくありますように。
それ以外に望みはない。
私は多くの子に光があることを願いたい。
生の終焉に至るその瞬間まで――祈り続ける、未来を歩む者たちの幸福を。
◆終わり◆




