婚約破棄された私でしたが、愛しい猫と夫に囲まれ幸せに生きることができています。
私には婚約者がいる。
名はオーリエ。
中流階級の家出身の三つ年上の青年である。
「今日は悪いな、呼び出して」
「いえ」
東国の古の美女のような形の顔、肌は何か塗っているかのように白く、鼻は茄子のような形。しかしその一方で目は大きく、女性を想わせるような形の目で、睫毛も長い。唇は薄く、少し口を開くと見える歯は綺麗に並んでいるのだが、虫歯が多く、並びこそ整っているものの見るからに黒ずんでいるような歯も多い。
オーリエはそんな男性だ。
「実は、お前との婚約を破棄とさせてもらうことにした」
真ん中分けにした前髪は長く、胸の前くらいまで垂れている。しかし側頭部の髪は薄く。また、後ろ髪は半分以上なく、毛のない部分は頭皮が丸見えになっている。
「婚約破棄ですか?」
「ああそうだ、そういうことだ」
「これまた急ですね」
「悪いなとは思う。が、お前と生きていくのはそろそろ無理そうなんだ。というのも、もっと忠実な女性を見つけようと思ってきたんだ」
でも私は彼を大切に思っていた。
嫌いではなかった。
一緒に生きていくのも悪くはない、そう思っていたのだ。
「そういうことだから、お前はもう要らない。いいか? 分かったか?」
「残念に思います」
「今さら泣いても無駄、心は変わらないよ」
「そうですね。では……これにて、失礼いたします」
こうしてオーリエとの関係は終わった。
残念に思う、それは事実だけれど――でも、終わってしまったならそれでいい。
失ったものばかりに執着するのはやめようと思う。
◆
あれから五年、私は、一人の男性と結婚して穏やかに過ごしている。
「あ、猫と遊んでたんだ?」
「ええ」
「いつも甘えてるよね~」
「ええ、そうなの」
最近の趣味は猫と遊ぶこと。
飼っている生き物と一緒に過ごせる時間は尊い、今それを何よりも強く感じている。
「そうだ、猫の餌買ってきたよ~」
「そうなの!?」
夫はもともと動物好きではなかったようだ。でも、私が猫を可愛がっているのを見て興味を持ってくれたようで、今では一緒になって可愛がってくれている。飼っている猫のためにいろんなものを買ってきてくれることもあるくらいで、理解がある。
「うん。実はさ、新しいのが出てたんだ」
「新作!?」
「そうそう、緑の袋」
「ええっ。緑? 嘘でしょ、この前見た時そんなもの並んでなかったわよ。赤と白しかなかったわよ?」
「でも今日はあったんだ――ほら」
夫は緑の袋を紙袋から出してくる。
「うわ! 本当だ!」
「ね?」
「もしかして新作? でも、何かが違うの?」
「栄養がうんぬんって書いてあるよ」
「へぇー。見てみる見てみる!」
私は今の夫と生きてゆく。
その強い決意がある。
ちなみに、オーリエはというと、あの後惚れた女性に急に近づき過ぎたことで地域の警備隊に通報されてしまったそうで犯罪者扱いされて逮捕されてしまったそうだ。
今、彼は、牢の中で寂しく生きているらしい。
とはいえ、今や私と彼は他人。
彼がどうなろうがどうでもいいことだ。
◆終わり◆




