私の家の権力を悪用しようとする婚約者を許しません。勝手なことばかりするなら婚約は破棄です。
私には婚約者がいる。
しかし彼は私を裏切った。
そもそも婚約することになったのは彼が望んでのことだったのに、彼は真の意味で私を愛してはいなかった――彼の狙いは私の家の権力だけだったのだ。
婚約者の彼アルベーは、私との婚約を手に入れるや否や私と婚約することによって得た権力を使って何人もの女性と遊ぶようになった。
私の家の力はそんなことのために使うものではない!
利用されるのには耐えられなくて。
何度か注意した。しかし彼は「いいじゃんちょっとくら~い」とか「遊びも人生経験だよ~。ま、女性がそういうことするのは絶対駄目だと思うけど。男は遊んで成長するから~」とか言うだけでまともに聞かず。私が察していると知りながらも女遊びを続けた。彼は権力を得られてご機嫌だった。
利用されてたまるか。
そう思った私は親と相談、そして、婚約の破棄を決める。
まずはアルベーの行いの証拠を集めた。
証拠がなければごまかされるだろうから。
そして、突きつける。
「アルベー、貴方との婚約は破棄するわ」
最初は「何を言い出すかと思ったら……そんなこと?」とか「婚約破棄なんて無理だよ、今さら」とか言って笑っていた。
しかし集めた証拠を見せると。
急に青ざめる。
「ど、どうして……そんなものを……!?」
「集めていたの」
「集めて!? え、ちょ、ちょ……どっ、どどどどどど……どうして……!?」
いきなり頭を激しく掻き始めるアルベー。
「そんなそんなそんな婚約破棄とか困る困る困るもう婚約してる前提で話してしまってるのにそんな困るそんな困るそんな困るそんな困るそんな困るそんな困るそんなのそんなの困るよ困るよ困る困る困る酷いよやめてよ困る困る困る困る酷いよそんなの心ないよ酷いよ酷いよやめてよそんなことやめてやめてやめて婚約破棄とかやめてよやめてやめて困る困る困る困る酷いよ」
一息でそんなことを言ったものだから驚いた。
が、だからといってこちらの考えを変える気はない。
こちらはもう心を決めているのだ。
何を言われようが関係ない。
「ま、そういうことよ。では……これにて、さようなら」
人の家の力を悪用するような人と共に生きてゆくことはできない。
◆
その後は淡々と婚約破棄の手続きを進めた。
慰謝料は少しだけ貰った。
そうして私たちの縁は切れる。
それから少しして聞いたのだが。
アルベーは婚約破棄直後に「困る」とか「やめてよ悪魔」とか同じような言葉を繰り返し続け、その途中で突然失神し、そのまま亡き人となってしまったそうだ。
倒れた原因は不明らしい。
急に失神し死亡とは謎でしかないが――驚くほど呆気ない最期だなぁ、としか思わなかった。
◆
アルベーと別れてから数年。
婚約破棄後ガーデニングに打ち込んでいた私は、うちの庭を気に入って毎日見に来てくれていた男性と喋るようになり段々親しくなって、やがて結ばれた。
彼も実は良家の子息だったのだ。
家柄が似ていたので話はすんなりと進んだ。
今は彼と二人一つの屋根の下でのんびりと生活している。
私は今もガーデニングに取り組んでいる。
完成された美しい庭を眺めながらゆったりした時間を楽しむのが私たち夫婦の日々の楽しみだ。
◆終わり◆




