婚約破棄されメイドに戻った私でしたが、真面目に働いていたところ見初められました。
先日婚約破棄された私は、数年ぶりにメイドとして城で働いている。
周囲からは地味だの華やかでないだの言われていた――というのも、まわりは皆、お偉いさんに見初められたいからと身を飾ることを好んでいたのだ。
そんな中で黙々と働いていた私は異端で。
あからさまに虐められはしなかったものの、裏や陰であれこれ言われることはあり、私自身もそのことを知っていた。
とはいえ、私が雇われているのは可愛い女としてではないので、働くことに集中するようにしていた。元々おしゃれにあまり興味がなかったというのもあるが。ただ、私は、本来の役目を担うべく動こうと思っていたのだ。
そんなある日、窓枠の溝を掃除していると。
「こんにちは」
誰かに声をかけられる。
振り返ると一人の男性が立っていた。
付近にいるメイドたちはざわめいている。
「どうしてあの子に……!?」
「裏で何かやってんのかしら」
「あの地味子よ……!?」
「王子とあんな風に喋るなんてぇ……生意気だわぁ……」
彼は確か……レリス王子では?
前に見たことがある。
でも、王子ともあろう人がどうしてここに?
それに、なぜ、私のような者に話しかけてくるのだろう。
「あ、はい、こんにちは。何かご用でしょうか?」
こういう時どんな風に対応すれば良いのか、慣れていないから難しい。
「貴女、いつも真面目に働いてくれていますね」
「仕事なので」
「でも、多くの者は、アクセサリーだヘアスタイルだといった話ばかりしていますよね。けれども貴女はその間も黙々と働いている。素晴らしいことです、感謝しかありません」
レリスは少し間を空け続ける。
「よければ少しお話しませんか?」
唐突な誘いに戸惑ってしまったが。
「少しだけ、です。……どうです?」
「しかし、本日の仕事はまだ終わっていません」
「その分は免除します」
「分かりました。では、そちらへ参ります」
川の流れに乗るかのように、彼と話をすることとなった。
その後、私は、定期的にレリスに呼び出されるようになった。
そうして交流を重ね。
やがて、結婚することを望まれた。
私はそれを受けた。
かつて婚約者から「可愛げなさ過ぎて最悪」と言われ婚約破棄されたため、そういうことは諦めていた――でも、幸せになりたくないわけではない。
誰だってそうだろう。
幸せを手に入れる、それは、多くの人の願いだろう。
もちろん、例外はあるとしても。
「元メイドの王子の妻なんて変じゃないですか」
「どうして?」
「何となく、階級が違うというか……」
「そんなことは関係ない! 大丈夫、誰にもおかしなことは言わせないから」
こうして王子レリスと結婚した私は、メイドから王子の妻となった初の女性となった。
やはり予想通り一部では批判もあった。
けれども彼は守ってくれた。
そのうちに批判も収まり何も言われなくなっていった。
あ、そうそう、過去に私との婚約を破棄した彼だが――彼はあの後婚約者ができていたようだが正式に結婚する前の日に火薬工場の爆発に巻き込まれ亡くなってしまったらしい。
◆終わり◆




