りすと遊んでいたら「頭大丈夫か?」と言われたうえ婚約破棄されてしまいました。
私は家の近くの森へよく出掛けていた。
目的は一つ。
仲良しのりすに会うことだけ。
私には幼い頃から遊んでいた不思議なりすの友達がいた。そのりすはいつも私を温かく迎えてくれる。しかも人の言葉を話せる。だから私にとってはそのりすが一番の友だったのだ。しかもほぼ年を取らないようで、何年経っても老いず、死にもしない。
だが私はやがて――それを原因に婚約破棄を告げられてしまうこととなる。
「お前、いっつもりすと遊んでるよな。頭大丈夫か? どうかしてるぜまったく。ってことで、婚約は破棄な」
「え? 婚約破棄……ですか? 待ってください、どうして急に」
「おかしいからに決まってんだろ」
「私の何がおかしいのです? りすが好きなだけです。問題になるようなことはしていません」
「だーかーらー、その『りすが好き』がおかしいんだよ。そんなことも分からねえのか? だとしたらそこもおかしいわ」
こうして私は婚約者エンレベリンに切り捨てられてしまった。
私は彼のことを嫌ってはいなかった。だからずっと一緒に生きられると信じていたしそれでいいと思っていた。こつこつ積み重ねていけばきっと分かり合える、そう信じていた。
それだけに急に終わりを迎えたことは悲しくて。
しばらくは笑えなかった。
りすのところにも行けなかった。
でも、それから一ヶ月ほどが経ったある日、りすの方から私の自宅へ来てくれて。
「ちょっと遊びに行かない?」
誘ってくれたので。
「ええ、ぜひ」
誘いに乗ることにした。
こうして私はまた不思議なりすとの日々を取り戻す。
◆
三ヶ月後、私は、不思議なりすが紹介してくれた一人の青年と将来結婚することに決めた。
りすのおすすめなら間違いない。
そう思えたから。
新しい出会いに感謝しながら勇気を出して前に進んでみることにした。
◆
あれから一年、私は予定通りあの青年と結婚し、今は穏やかに夫婦で生活できている。
「おはよう、お弁当を作ったわ」
「え!」
朝はいつも彼を見送る。
今も私にとってはそれが一日の始まりを告げる鐘の音のようなもの。
「これよ、ほら見て、頑張って作ってみたの」
「うわ! うわわわ! 凄い……。ありがとう!」
「今日は山へ行くのでしょう。改善点はあるかもだけれど、よければ食べてみて。美味しくできているはず、いや、絶対ではないけれど。でも、味見もしたし、ある程度は成功しているはずよ」
「嬉しい! ありがとう!」
「ふふ」
ちなみにエンレベリンはというと、あの後、何者かから嫌がらせを受け続けたそうだ。
ある時は、自宅に荷物として大量の虫入りどんぐりが届き。
ある時は、寝ている間に寝床に小動物の死骸が並べられていて。
ある時は、耳の穴に汁の出た虫が何匹も詰まっていて。
そんなことが続いたものだから段々正気を失ってしまったエンレベリンは今ではもう普通と言えるような生活はできない状態だそうだ。
今の彼にできるのは虫を食べることだけだそう。
それ以外は何もできず。
基本的にはぼんやりしているだけだそうだ。
かつて私を心なく捨てた彼はもう――この世にはいないと言っても過言ではないのかもしれない。
◆終わり◆




