懐かしい衣装を久々に着てみていたところ、婚約者に激怒され捨てられてしまいました。
二年前踊りの発表会で着用した衣装を久々に着てみた。
それはただのちょっとした思いつきで。
ただ少しそれを着て踊ってみたかっただけで、それ以下でもそれ以上でもなく、深い意味なんてなかった。
けれども。
「なんだあの格好! みっともない! お前みたいなまたゆる女は最低最悪だ! よって、婚約は破棄とする!」
その場面を目撃した婚約者ルテンに怒られ婚約破棄を告げられてしまった。
「あんなみっともない格好! 論外だ! お前があそこまでみっともない品の欠片もないやつだとは思わなかった。ああもう、そんな女と一緒にいた時間があるだけでもがっかりだ。人生最大の汚点だ! どうしてくれる! 完璧な俺の価値を下げやがって! 絶対許したくないくらいだ、本当なら殴り倒して踏みつけて殺したいくらいだ」
ルテンは私が踊りの衣装を着ていたことを非常に不快に思ったようだ。
一人こっそりしていただけなのに……。
誰もいないところで着る服くらい選ばせてほしいのに……。
でも、ここで何を言っても無駄だろうから、大人しく婚約破棄されておいた。
◆
その後私は再び舞踊の道へと戻った。舞踊家として活動し始める。そんな中参加したとある舞台にて、たまたま客として観に来ていた王子に気に入られて。公演終了後に声をかけられて。その後私は城で舞う舞踊家として活動することとなった。
で、やがて、私は王子からプロポーズされる。
「君を妻としたい」
私でいいのかな、なんて思いはしたけれど。
せっかく言ってくれているのに拒否するのも不自然。
なので受け入れることにした。
「ぜひ、よろしくお願いします」
大丈夫。
彼ならきっと踊りのことだって認め受け入れてくれるはず。
「ありがとう! 嬉しいよ!」
「私もです」
「では、これからは夫婦として、どうかよろしく」
「はい」
こうして私は王子の妻となった。
最初は「あんな踊り子が」と言われもしたけれど、そういう時にはいつも夫となった彼が守ってくれた。
次第に皆にも受け入れられて。
批判する人も減っていった。
そういえば。
これは、最近侍女を通じて聞いて知ったのだけれど。
かつて私を怒って切り捨てたルテンはというと、あの後何人もの女性に結婚を申し込むも次々断られ、怒りのあまり崖から飛び降りておおよそ死んだような状態になってしまったそうだ。
今の彼は物のような状態らしい。
生命は動き続け。
しかし意識はない。
ただ、身体が、器が、そこに在るだけ。
そんな状態となってしまっているそうだ。
拒否されたのは辛かっただろう。でもだからってそんなことしなければ良かったのに。崖から飛び降りる、なんて。そんな危ないことをしなければ、今もきっと普通に生きていられただろうに。
ま、でも、それもまた彼の選んだ道か。
◆終わり◆




