想定していなかったのですが婚約破棄されたので、近所の昔から仲良かったお兄ちゃんに会いに行きます!
私には昔から非常に仲良しだった近所のお兄ちゃんがいた。
子どもの頃は「結婚するー!」なんて言っていたものだ。
実際、それは本心だったし、冗談ではなくてそうなればいいなと思っていた。
けれども現実はそう思い通りにはいかず。
年頃になると周囲からの圧は強まり、流れのままに一人の男性と婚約することとなってしまった。
婚約者となった彼モートンは私より三つ年上。平均的な容姿の人だが、良くも悪くもなく、どちらかというと地味な感じで馴染みやすかった。
だからといって恋愛感情を抱けるかというとそうではないが。
ただ、彼と生きるのも悪くはないかな、と思ってはいた。
けれど……。
「悪いね、君との婚約は破棄とすることにしたよ」
その日、突然、そんなことを告げられてしまった。
これにはかなり驚いた。
こういう展開は一切想定していなかったから。
「君のような美女とは言えない女性を妻にするのは僕のプライドが許せないんだ」
「え……でも、そういうことなら、どうして今さら……」
「最初は我慢していたんだよ。もしかしたら容姿以上の魅力があるかもしれない、と思い込むよう、僕なりに努力していたんだ。でも無理だったし、容姿を補うほどの良い点はなかった。から、関係は終わりにすることにしたんだ」
彼は長文で説明をして、笑顔で「これで終わり、もう話すことはないよ」とはっきり言った。
どうしてそんな笑顔で……と思いながらも、私は、婚約破棄を受け入れるしかなかった。
モートンに婚約を破棄された私は、昔親しかった近所のお兄ちゃんに会いに行くことにした。
彼が今住んでいるところは知っている。といっても一年ほど前の情報ではあるけれど。ただ、街でばったり出会った時に本人から教えてもらった情報なので、間違っているということはないだろう。一年ほど前から大きく変化がなければ、彼は今もそこにいるはず。
「はーい。……って、え!?」
「すみません、急に」
「アムネちゃん!? どうしてここに!?」
いきなり訪問したからかなり驚かれた。
「すみません、急に来てしまって」
「いやべつにそれはいいけど……どうしてこんなところに? それも一人で?」
彼は少々混乱しているようだった。
無理もないか。
もうずっと会っていない人が急に訪ねてきたのだから。
「婚約が破棄になってしまいまして」
「え……あ、う、うん、そうなんだ。で、それで……どうして?」
「迷惑かもしれません……でも、その、話を聞いてほしくて」
すると彼は頷く。
「そういうこと! ならいいよ、どうぞ」
それから彼にモートンとの話を聞いてもらった。
◆
モートンに婚約破棄されたあの日から、早いもので、もう三年が過ぎた。
一年が過ぎてゆくのは本当にあっという間。
色々あって忙しかったこともあるかもしれないけれど、この三年は信じられないくらい早く過ぎた。
で、私がどうしているのかというと、昔仲良かった近所のお兄ちゃんと結婚した。
叶わなかった、と一度は諦めた、幼き日の夢。
それは意外な形で叶った。
モートンが切り捨ててくれたからとも言える。
そういう意味では彼に感謝しなくてはならないかもしれない。
今は幼き日の夢が叶ってとても幸せに暮らせている。
一方モートンはというと、私に婚約破棄を告げた数日後にたんすに足先をぶつけたことでうっかり転倒してしまい、後頭部を強打して落命してしまったそうだ。
◆終わり◆