婚約者の母親が虐めてきていたので、婚約破棄を告げられた時はとても嬉しかったのです。
それまでは恋愛とか異性にあまり興味がなかった私だけれど、年頃になった頃、皆と同じように一人の男性と婚約することとなった。
周りもそんな感じだった。
だからそうものなのだろうと何となく思い込んでいて。
婚約することへの抵抗はそこまでなかった。
だが、レイレと婚約すると、彼の母親から酷いいじめを受けることとなってしまった。
思えば初めて出会った日から感じ悪かったのだけれど。その時はそこまで考えていなくて。嫌みのようなことを言われはしたけれど、気のせいかなと思って、何となく流していた。そんな感じになっているだけで悪意はないのだろう、と、良い方に理解している部分もあった。
しかしそれは気のせいではなかった。
レイレの母親は私にやたらと嫌がらせをしてきたのだ。
たとえば、レイレがいない時に自宅へ呼び出して冗談のように見せかけながら尻を叩いてきたり。他にも、大量の涎を桶に貯めていてそれ飲むよう求めてきたり、集めたふけをかけてきたり。
そんなある日、レイレに呼ばれる。
「お前! 我が母を虐めていたそうだな! それも、俺の知らないところで。なんと卑怯な! 許せん!」
「え? え?」
「母から聞いたのだ! もう絶対に許さない……婚約は破棄だ!!」
どうやらレイレの母親はレイレに嘘を吹き込んでいるようだ。
虐められていたのはこちらだというのに。
しかしこれはチャンスだ。
婚約破棄を向こうから言ってきたのだから。
この波に乗れば母親から逃れられる。
「俺は母を守る! そのためお前を切り捨てる!」
「分かりました」
「ふん、生意気な女め」
「では失礼します。これにて。さようなら」
こうして私は婚約破棄された。
でもそれでいい。
むしろ助かった。
これでもう虐められはしない。
◆
その後私は結婚した。
相手は商売人の息子である青年であった。
「そっか。そんなことがあったんだね」
「ええ」
「辛いね、それは」
「分かってくれる?」
「すべてを理解できるとは思わないよ。経験したことはないから。ただ、辛いだろうなってことは想像できるんだ」
色々あったけれど、幸せを掴むことはできた。
これからはこの大切な幸福を守ってゆく。
「ごめんなさいね、何というか……ちょっと、暗くなってしまって」
「え? いいよ! そんなの! 気にしないでよ!」
「……ありがとう」
穏やかな幸せ、そういう幸せの形もあるのだと――彼に出会って知った。
「あ、そうだ、昨日手に入った茶葉があるんだ! 飲んでみようよ」
「ええ。飲んでみたいわ」
「じゃ、淹れてくるね?」
「ありがとう」
ちなみに、レイレとその母親は、孫である私が傷つけられたと知って激怒した祖父――私の母の父によって、拘束され拷問のようなことをされた後に処刑された。
二人は別室にて数ヶ月にわたって拷問され、精神が壊れてもなお痛めつけられ続けていたそうだ。
最終的に二人を処刑したのは、あくまで、いつまでも生かしておくのが面倒だったから。
優しさではなかったようだ。
◆終わり◆




