酷い人生だった……と思いつつ死を選んだ瞬間に不思議な力を手に入れたので、その力を使って復讐することにしました。
思えば嬉しくないことの多い人生だった。
家庭はいつも妹が中心。
私はすみっこで。
同じ娘のはずなのに、妹はまるでお姫様、私はほぼ存在のない空気同然の女。
両親はいつも妹のことばかり贔屓していた。そして、妹がちょっとでも私を悪者であるかのようなことを言ったなら、それを鵜呑みにして私を叱った。両親にとっては妹がすべて。私が本当に悪者かどうかなんてどうでも良かったのかもしれない、と、後から考えると思うほど。妹がやらかしたことを私の罪にされたこともあったくらいだ。
そして、婚約者オッド、彼も私のことをいつも悪く言った。
そんなに嫌なら婚約なんてしなければ良かったのでは? と一度だけ言ってみたのだが、そうしたら物凄く怒られた。
とにかく理不尽な人だった。
そして、オッドの母親も厄介な人で、息子の妻となる私のことが気に入らないのかことあるごとに小さな指摘をしてきた。いちゃもん同然のことを言われたことも少なくはない。とにかくやたらと絡み、敢えて不快な思いをさせてきたのである。
だから、彼に婚約破棄を告げられた時は、一瞬嬉しかった。
彼から、彼の母親から、解放される。
それが嬉しくて。
束の間ではあるが光を見られた気がした。
しかし。
婚約破棄され実家へ戻った私を待っていたのは、両親からの激怒と妹からの侮辱だった。
母親は「婚約破棄されたのは貴女が魅力的でなかったからでしょ」とか「貴女がちゃんとしていれば婚約破棄になんてならないわよ」とか言ってきた。
実の娘に対して平然とそのようなことを言える神経が理解できない。
父親は私を叱った。
どうして気に入られるように振る舞えなかったのか、と。
そして妹は私のことを馬鹿にしてきた。前からそうなるとは思っていたけど、などと前置きしたうえで、すれ違うたびに失礼なことを言ってくる。また、私の部屋へ『捨てられた可哀想なお姉さま、この求人がおすすめよ。身を売ってみてはどう? 仕事でなら愛されるかもしれないわよ? なーんてね。ま、精々我が家のために貢献しなさいよ、お金を稼いでね』などというメモを置いてきたことも複数回あった。
生まれた家にさえ居場所はない。
絶望した私は命を終わらせることにした。
このまま生きていても辛いだけだから。
酷い人生だった……。
しかし、その死が、私の運命を変えた。
◆
湖に飛び込んで死を迎える直前、私は一人の半透明な老人を見た。
その人は「可哀想に」と泣きそうな顔でこぼしてから、手に持っていた杖の先をこちらへかざす。
そして気づけば湖畔にいた。
(生きて……いる……?)
ふと地面を見ると『その力を使って復讐せよ』と書かれた紙が落ちていた。
意味が分からなかった。
でも生きなくてはならないのだと感じて。
仕方がないので自宅へ帰ることにした。
◆
「ちょっと! どこへ行っていたのよ! いい加減にしなさいよ、周囲に迷惑ばっかりかけて。ホント、役に立たないわね! だから貴女は妹と違ってゴミな……」
掴みかかろうとしてくる母親の手を払おうとした、瞬間、手のひらから光が放たれて母親が一瞬で消え去った。
「え……」
手が触れた、それだけなのに、母親が消えた。
人一人が消滅した。
骨どころか灰さえ残っていない。
あの紙に書かれていた『その力』ということはこの力のことだろうか? 確かに強力そうなので復讐には使えそうだが。でも、この力は一体何なのだろう? 私はどうなってしまったのだろうか? それは私が考えることではないのかもしれないけれど。
だが。
どうせならやってみよう。
「帰ってきたか」
「ごめんなさいお父様」
「もういいさっさと寝ろ。……あれ? 母さんはどうしたんだ」
「お母様には会っていないわ」
「いや、それはおかしい。だって、帰らないとイライラしながら玄関で待っていたはずなんだ。本当に会っていないのか?」
本当に、ね……。
「ええ、会っていないわ」
そう答え、父親の肩に触れる。
「何か不安?」
「な、な……何なんだいきなり。今日のお前はいつもとちが……」
そして力を発動する。
父親も吹き飛んだ。
その後、妹を呼び出して。まず一撃目で歩行能力を奪い、恐怖に顔を歪める彼女に対してこれまでの気持ちを告げる。彼女は泣いて謝った。そして許しを乞ってきた。これまでとは完全に逆の関係性だ。でも許しはしない。恐怖を長引かせるため彼女だけは数日間拘束した状態で部屋に置いておいていたが、その後、例の力を使って生命を終わらせた。
翌日、オッドのとこへ行き、オッドの母親の目の前でオッドを消し飛ばした。
「ちょっ……な、何をしたのよ……!?」
「次は貴女です」
「はぁ!? 何なの!? 逆恨みで殺めるなんて許せない!! 言いふらしてやるわ!!」
「残念ですがそれはできませんよ」
誰も、私からは逃れられない。
「ちょっと、何する気、いい加減にしな……い、いやっ、い……や……」
そしてオッドの母親も終わった。
「ふー。……これからどうしようかな」
私の復讐はここまでだ。
この先のことは決めていない。
だがそれでいい。
これからのことは今から決めよう。
◆
復讐を果たした私は遠い国へ引っ越した。
で、その国にて、力を使って兵としてのしあがっていた。
今や国内で一位二位を争うほどの良い評価を得ている。
人々は私を『戦いの女神』と呼び素晴らしいものとして扱う。
こんな人生も悪くはないかもね。
◆終わり◆




