火炎魔法使いの赤髪令嬢、彼女は、両親を何より大切に思っているのです。~そして彼女なりの幸福な道を行く~
エルリエ・フィレイマ、燃ゆるような赤い髪を持って生まれた彼女は、良家の令嬢で優秀な火炎魔法の使い手だ。
彼女には生まれる前から決まっている婚約者がいた。
名はオーズという。
彼と結ばれ家に繁栄をもたらして生きるというのが彼女に与えられた人生で使命だったのだ。
けれどもオーズはエルリエを嫌った。
彼女が優秀な魔法使いであったことが怖かった、というのもあったのかもしれないが。オーズはとにかくエルリエを嫌っていて。ことあるごとに貶めるような言葉を並べて。エルリエが温厚であることを利用し、傷つけるようなことを繰り返した。
だが、ある時、彼は言ってしまった――絶対に言ってはならないことを。
「お前なんかさ、親だったクソだろ? お前がクソだから、親も絶対そうなんだろうなーって思ってんだよ。どうなんだ? クソか? どうだ? 親、クソか?」
エルリエは穏やかな女性だ、己のことを酷く言われても怒らない。
少し悲しそうに微笑むだけで。
向けられた剣が言葉である限り、絶対に反撃はしない。
だが、親を悪く言われたら別だ。
「……貴方は一線を越えてしまったようです」
彼女は親を大切に思っている。
その宝物を下げるようなことを言われては。
さすがの彼女も許しはできない。
「我が親を侮辱する者を許しません」
エルリエは火炎魔法を使った。
それも最大威力のものを。
彼女がその力を他者に向けるのは生涯でこの一度だけだったと後に語られるほど――これは珍しいことだったのだ。
そしてオーズは家もろとも滅ぶこととなった。
彼女の炎は家を包む。
何日も燃え盛った。
それは彼女の心の奥にある一種の痛みを映し出しているかのようでもあった。
こうしてオーズ一家は逝った。
オーズとエルリエの婚約は、オーズの死をもって、自動的に破棄ということになった。
エルリエは罰を受けることも厭わないと言った。
しかし彼女に罰がくだることはなかった。
これまでオーズが繰り返してきた暴言のことを知りエルリエに同情した国王の命により、多少の罰金だけで許されたのであった。
それから、エルリエは、両親と共に一つの屋根の下で幸福に生きた。
◆
彼女は結婚はしなかった。しかし街で孤児院を開いた。そのため、彼女は、年を重ねても孤独ではない様子であった。赤い髪の持ち主である彼女は、子どもたちに囲まれ、いつも穏やかに微笑んでいた。
特に、晩年のエルリエは、子どもらとハーブを摘むのが楽しみとなっていたと言われており――珍しい形ではあるものの、彼女は彼女なりの幸福な人生を謳歌したようであった。
◆終わり◆




