王妃になるはずだった私は若き国王から婚約の破棄を言いわたされ城から追い出されたのですが……。
私、エリシーナは、若き国王ルルガと婚約していた。
彼との婚約はこの国のことを考えて病で早くに退位した先代国王が決めたもの。それゆえそこそこ良い家柄の出の私も拒否することができず。そのまま、先代国王の望んだ通り、婚約は成立した。
けれども少々わがままなルルガはそれを良く思っていないようで。
「エリシーナ、君との婚約はやはりなかったことにする」
今日、ついにそう告げられてしまった。
婚約はなかったことに。
これは事実上の婚約破棄である。
「急ですね。良いのですか? この婚約は先代国王が決めたことなのですよ? 勝手に判断して問題ものなのですか」
「うるさい女だな。そんなだから嫌いなんだよ」
「話を逸らさないでください」
「黙れ! ……おい、そこの、この女を城から追い出せ」
こうして私は城から追い出されることとなった。
ルルガはいつもこうだ。少しでも気に食わないことがあれば相手を城から強制的に追い出そうとする。そして、人格のわりに大きな権力を持ってしまっているがために本当にできてしまうので、そこも厄介だ。
先代国王からは「あのわがままを少しでも良いので改善させてほしい」と言われていたけれど、どうやら私には無理だったようだ。
しかし、あれに付き合うのはもう疲れた。
「エリシーナ様……申し訳ありません、このようなことになり」
「良いのですよ」
「本当は誰も従いたくなどないのです……しかし彼は国王であり……逆らえはしないのです」
「分かっています。それが貴方の仕事ですものね。気になさらないでください」
ここらで彼からは離れて。
新しい人生を選ぼう。
できるのなら、自由にも生きてみたい。
◆
その後、私はとあるきっかけから一人の青年に出会った。
エリオスという名の彼は、国王のめちゃくちゃな政策から国民を守るために活動している人物だった。
私は彼に協力することにした。
ルルガのめちゃくちゃさは一番知っているから、そして、それが嫌だという気持ちには非常に共感できるから。
それから私は活動家の中に入ってゆく。
◆
それから数ヶ月、ついに、王城へ乗り込み国を変える日が来た。
準備は念入りに行ってきた。
既にこちらの手の者も城へ数名乗り込んでいる。
きっと作戦は上手くいくだろう。
◆
作戦は成功した。
王城は我々の手の内に入った。
今になって知ったのだが……私が城を追い出されたあの日丁寧に謝ってくれた警備兵もまたこの組織から乗り込んでいた者のうちの一人だったようだ。
ま、それは置いておくとしても。
今日以降この国は国民のものとなる。
ルルガは捕らえられ、人々の前に出された。で、縄に縛られたまま、皆の怒りをその身に刻まれた。そう、殴られ蹴られごみをかけられ、ということになったのだ。その中には、これまで国王の指示で理不尽な目に遭った者の家族なども含まれていた。皆、これまでの怒りを、国王に直接投げつけた。
その後彼は人々の目の前で処刑された。
こうして、王族だけが権力を持ち勝手に仕切る国は終わったのだ。
「エリシーナ、これからも僕の隣にいてくれるかい?」
「ええ。できる限り協力するわ」
「ありがとう……」
「もちろんよ。我が家もこの国のために協力するわ」
「ごめん……色々。でも、本当に嬉しい。全面的に協力してもらえるなら凄く助かるよ」
私はエリオスと生きる道を選んだ。
◆
あれから十数年、私がエリオスと結婚して夫婦になってからもう十年以上が経つ。
子ども二人ももうすぐ十歳。
まだまだ小さいけれど。
でも子どもなりに成長してかなりしっかりはしてきている。
エリオスは国の要職に就いているため忙しそうだ。
でも、彼と生きていられることは、私にとっては何よりもの幸せ。
「ただいま」
「おかえりなさい、エリオス」
「ごめん、遅くなって」
「気にしないでちょうだい。そうだ、今日ね、子どもと一緒にご飯を作ったの」
「え! それは凄い」
◆終わり◆




