婚約すれば幸せになれるのだと思っていましたがそうではなかったようです。が、それでも幸せな未来はあったのでした。
婚約すれば幸せになれる。
そんな風に言われて育った。
だからだろうか、私はその言葉を無邪気に信じていたのだ。
けれどもそれは真実ではなかった。
婚約したからといって幸せになれると決まっているわけではなかったのだ。
「悪いな、婚約は破棄させてもらう」
その日、婚約者ルトインからそう告げられた。
「え……そ、そんな、どうして……」
「どうして、だと? 簡単なことだ。お前より魅力ある女性と出会ったのでそちらの女性と生きることを決めただけだ」
「ま、待ってください! 今さらそのような……」
「は?」
「え」
「そのような? だと。ふざけるな。俺のすることを否定するというのか? お前は自分がそんなに偉いと思っているのか。だとしたら馬鹿そのものだな。ああやはり婚約破棄することにして良かった。お前に付き合っている暇はない、婚約は破棄だ、さっさと俺の前から消えてくれ」
こうして私は捨てられる。
私が見つめてきた幸福な未来というものは塵と化し消えた。
◆
その後、私は、友人が誘ってくれたこともあって実家から離れて王都へ出た。
そしてある屋敷で働き始める。
資産家の自宅だと聞くその場所で、私は毎日、家事全般を行った。
仕事は忙しくて。けれども家にいる時のような気まずさはないからある意味良かった。婚約破棄されたことについて色々言われることだって、ここでならない。言われた通りに働いていればいいだけ、それはありがたいことだ。
「すまない、少し話があって」
そんなある日、屋敷の主である男性ルレから声をかけられる。
「……は、はい。えっと……何でしょうか」
「君、いつも熱心に働いてくれているね」
「それは……仕事、ですから」
「君の真面目さに惹かれたんだ。よければ……我が妻となることを視野に入れて恋人となってはくれないだろうか?」
ただの家事係だった私の目の前が開けてゆく。
ルレが見初めてくれたことによって。
それから数年、私は、ルレと結ばれた。
◆
ルレと結ばれてから、早いもので、もう二年が経った。
「何をしているんだい?」
「あっ。今、少し、洗濯物を乾かしていました」
「ああもう君は何もしなくていいと言ったのに……」
「すみません、でも、何かしている方が気が楽で」
「君は僕の妻なのだよ? 今はもう家事係ではない。だから何もしなくていいんだ。優雅にティータイムでもしていてくれればいいよ。……でも、気を遣ってくれてありがとう」
私たちの幸福な日々は今も続いている。
「昨日も皿洗いをしてくれていたのだろう? 僕が寝てしまった後。係から聞いたよ」
「すみません、駄目でしたか……?」
「申し訳ないよ、いつまでもそのようなことをさせてしまって。これからはもうしなくていいよ。でも、駄目とか、そんなのじゃないよ。君の気遣いは理解できるから、ありがとうと言うよ」
そういえば先日、元婚約者ルトインに関する話を耳にしたのだが。
彼はあの後女性に騙されて資産をほとんど奪われることとなったのだそうだ。
今は一家総出で安い賃金の仕事をしているそうで。
それによって何とか生活費を手にしているというような状態だそうだ。
◆終わり◆




