ぱっとしない女性には興味を持てないんだ、と言われ、婚約破棄されました。~怒った姉が彼の仕事を奪ったようです~
「君と生きてゆく未来を想像できなくなった。よって、婚約は破棄とする。君とはこれでおしまいだ、さよなら」
ある日のこと、赤毛の婚約者オードレインスが急に呼び出してきたので、珍しいなと思いつつ彼の家へと向かった。
というのも、彼は婚約者である私を愛してはいなかったのだ。
彼はこれまで一度も私に優しい言葉をかけはしなかった。そしてほぼ放置であった。嫌なことを言ってくる、といったことはなかったけれど、だからといって良いことを言ってくるわけではなかった。ほぼ無であった。
で、珍しく呼び出されたと思ったら、これだ。
「婚約破棄……ですか?」
「ああそうだ」
「どうして……?」
「好きになれないからだ。君のようなぱっとしない女性には興味を持てないんだ」
薄々気づいてはいたけれど、いざこうはっきりと言われてしまうと……どことなく切ないような感覚もある。
もっとも、彼が私をどうでもいいと思っていることなんて分かっていたことなのだけれど。
でも、せっかく婚約者同士になったのだからもう少し仲良くなれたら良かったのに、とは思ってしまう。せっかく得られた縁だ、無駄にしたくなかった、とは思ったのだ。とはいえ、彼の中にはそのような思いは欠片ほどもないのだろうし、その事実に気づいてはいるのだけれど。
「そういうことだから、去ってくれるかな?」
「……はい」
「ありがとう。じゃ、さよなら」
こうして、彼との関係は終わってしまった。
◆
婚約破棄され実家へ帰った私は、家にいる両親と姉にそのことを告げた。
すると両親は眉をひそめて。
姉は怒りを露わにし「前から感じ悪いと思ってたのよ!」と発していた。
「こんな可愛いあたしの妹にこんな仕打ちをするなんて許せないわ! そもそも、興味が持てそうにないのなら、最初から婚約なんてしなければ良かったじゃない。興味が持てないからとか自分の都合を言って契約を一方的に取り消すなんて、無責任にもほどがあるわ」
その後、私は、オードレインスが職場をくびになったことを知った。
どうやら姉の仕業のようだ。
彼女が学園時代の人脈を利用して彼の職場のお偉いさんに婚約破棄の件を告げ、それによってオードレインスは辞職に追い込まれたらしい。
正直驚きだった。
そんなことになるなんて、と。
姉から聞いた話によれば、お偉いさんの娘もそのような経験があったらしく、私の件にも強く関心を示してくれていたそうだ。
◆
それから数年、私は結婚した。
相手はサンドイッチ専門店を営む家の子息。
長男で、いずれは店を継ぐ予定となっている人だった。
彼はやや地味な雰囲気の人なのだが、心優しく、接すればただの影が薄い人ではないのだと分かる。
そんな彼とは気が合って。
気づけば結ばれるところにまで話が進んでいたのだ。
私は彼と生きることを望んでいる。
一方オードレインスはというと。
あの時職場を急に切り捨てられたことで心を病み、それ以降ほとんど家から出なくなったそうだ。
それも、健康な状態で家にいる、というわけではなくて。
一日中自室にこもっていて世話してくれている親とさえ滅多に喋らないような状態だそう。
今、彼は、孤独の海の中にいる……ようだ。
◆終わり◆




