婚約破棄されてからメイドとして働くことになり一人真面目に働いていたところ王子に見初められました。
そこそこ良い家柄の娘として生まれた私は恵まれた環境で育ち年頃になると身分的にも相応しい婚約者と結ばれる……はずだったのですが。
「君との婚約は破棄する!」
婚約者ウウルーは私を良く思えなかったようで。
ついに関係の終わりを告げられてしまった。
「そもそもだな、女に学力なんて必要ないんだよ。女のくせに教育を受けているなんて生意気なんだよ、可愛くねーなぁ」
ウウルーはそう吐き捨てて、私を屋敷から追い出した。
彼は私との関係を一方的に終わらせた。
そうして手にしていた婚約を失った私は、両親にこれからについて相談し、父親の知り合いに頼んで城でメイドとして働くことになった。
取り敢えず何もすることがない状況は免れた、が……。
いざそこへ行ってみると、またしてもややこしい人たちがいた。
「彼女、婚約破棄されて働くことにしたんですって」
「え~。婚約破棄されたとか~。絶対欠陥人間じゃ~ん」
「クソウケル。ダサ女ってことだよね」
「人間性がおかしいんだよ、きっと。あたいの中の神様が教えてくれたよ」
メイドたちの多くは、働いているふりをしてはいるものの、労働時間のほとんどを恋の話やおしゃれの話や噂話に費やしている。
つまり、真面目に働いていない。
とはいえ私はそこに加わる気はないので。
噂されることも無視して。
仕事内容を覚えることだけに集中した。
私は働く人間として雇われているのだから、周囲との関係性の構築は最低限でいく。
とにかく働き働いた。
「あの子、やっぱおかしいって~。働きすぎ~。さぼってても金貰えんのにさ~」
「真面目ぇ」
「どうかしてるよね」
他のメイドたちからそんな風に言われていることを知っていても気にしない。
◆
そんなある日。
窓拭きを一人でこなしていると。
「あの、少しいいかな」
一人のややぽっちゃりした男性に声をかけられた。
「はい。何かご用でしょうか」
「君一人? 一人で窓拭き?」
「はい、担当ですので」
「他に窓拭きの担当は。いないの?」
「そうですね。本日は窓拭きは私一人です」
彼は少し何か考えるような顔をして。
「そっか」
そして続ける。
「いつもありがとうね」
感謝されるなんて思っていなくて。
少し驚いてしまった。
◆
それから数週間が経ったある日、私はいきなり国王に呼び出された。そうして指定の部屋へ行ってみると、国王と共にこの前窓拭き中に会った男性がいて。話を聞くに、あの時会った彼は王子だったようだ。
幼い頃の彼しか知らなかったので少し意外だ。
「貴女には我が息子の妻となっていただきたい。良いだろうか?」
国王はそんなことを言ってくる。
どうして私? とは思うけれど。
でも国王が直々にそう言ってくれているとなると断ろうにも断れず。
「ぜひ、よろしくお願いいたします」
私はそれを受け入れた。
こうして私は王子と結婚することになった。
私が王子と結婚すると知ったメイドたちは私に嫌がらせをしてきたけれど、私は仕事に打ち込んだ。結婚するまではメイドだからだ。そんな私の様子を王子は時折見にきて、絡んでくる者がいれば撃退してくれた。
◆
あれから数年、私は今、王子の妻となり日々忙しく暮らしている。
幸運なことに、王子の周囲で働く侍女たちは親切で。
メイドあがりの私のことも受け入れてくれた。
特に侍女のリーダーは私のことを気にかけてくれていて、「何か困ったことがあったらいつでも相談してちょうだいね」と言ってくれて。
おかげで今は心穏やかに生きられている。
ちなみに、元婚約者のウウルーはというと、私と王子の結婚式典の際に「女に教育は要らんー!」などと怒鳴りながら謎の主張をしながら乱入してきたことで警備隊に拘束され、そのまま牢屋送りになった。
今はきっと牢屋で冷たい飯を食べていることだろう。
◆終わり◆




