愛してほしい、なんて思ってはいなかったけれど……いきなり婚約破棄はさすがに感じ悪いですよ!?
私とオーレイドは婚約者同士。
けれども愛し合ってそうなったわけではなく。
家と家の契約としてそうなった。
もちろん、さすがに強制ではなくて、一応お互い了承はしたけれど。
「これから婚約者としてよろしくお願いしますね」
「ああよろしく」
婚約が決まった日にはそんな風に言葉を交わした。
◆
「お前との婚約だが破棄することにした」
今日、オーレイドは、そう告げてきた。
「え。婚約破棄……?」
「ああそうだ」
「何か問題でも発生したのですか?」
「いや、べつに。ただ、これからずっとお前と生きていくのは無理だなぁと思ってな」
深い理由はない、ということか。
「そもそも好きだったわけじゃあないしな、そんなやつと生涯を共にするとかほんと無理なんだわ。そんな未来を考えたら脳がおかしくなりそうだわ。お前と生きていく、って考えたらさ、どうにかなってしまいそうでな。だからもう終わりにすることにしたんだ。……分かったか?」
愛してほしい、なんて思ってはいなかったけれど……いきなり婚約破棄はさすがに感じ悪い。
とはいえ、これはもう決定事項。相談ではない。それゆえ、ここでこちらが何か言ったところで、きっと結果は変わらないのだろう。私には受け入れる道しかないのだろう。
「分かりました」
「それは良かった! 助かる」
「では、私はこれで。失礼します」
「よろ!」
私はオーレイドの前から去る。
どこか切なげな風に髪を揺らされながら。
◆
婚約破棄後、元々趣味だった小説の執筆で成功し有名になった私は、作品を気に入った王子から声をかけられ彼と関わりを持つようになった。
そして、やがて、彼と結ばれることとなる。
意外な形ではあったけれど。
私は王子の妻となった。
それに加えて、夫となった王子の妹である王女とも仲良くなった。
彼女も私の作品のファンだったようで。
気さくに関わってくれた。
こうしていろんな意味で良い縁に恵まれた私だったが、それとは対照的に、オーレイドはぱっとしない未来へ突き進むこととなったようだ。
彼はあの後自分が好きだった女性と婚約。しかし勝手に婚約を決めたことで親と揉めることとなってしまい。その件に関する喧嘩の中で、一時的に感情的になった彼は、父を怪我させてしまったらしい。そういうことを何度かやらかしたらしく、それによって勘当されてしまったそうだ。それでも愛する人と結婚した彼だったが、いざ結婚してみると喧嘩ばかりになってしまって。数年も経たず離婚したそう。で、今は、一人寂しく世界を彷徨っているらしい。
◆終わり◆




