私の瞳の色に耐えられなくなったからと言って婚約破棄をした彼はその後目の激痛に襲われたうえ亡くなってしまったようです。
私は生まれつき赤い瞳を持っていた。
赤い瞳はこの国では珍しい。この国で初の例というわけではないようだが、知人にはいないし一般論としても赤い目を持つ者というのは珍しいとされている。この国の人間はほぼ茶色かグレー系の瞳である。
そんな私は異端として子どもの頃から虐められることもあった。
ただ親は赤い瞳を受け入れてくれていて。
何を言われても気にしなくていいし、絶対に悪くない――そう、迷いなく言ってくれた。
私にとってはそれが何よりもの救いだった。
親がそう言ってくれる。
親だけは絶対味方でいれくれる。
そう思えたからこそ、あの森にそびえる木々のよう真っ直ぐに育つことができた。
で、そんな私にも年頃になると婚約者ができた。
彼の名はモドレッテ。
気さくな人だった。
男性慣れしていない私にも躊躇いなく喋ってくれて、それで、私は段々彼を好きになった。
――けれどそれにも終わりが来てしまう。
「ごめんだけど、君との婚約は破棄することにしたから」
その日、モドレッテは、何の躊躇いもなくそう告げてきた。
まるで最初からそうなると決まっていたかのように。
それが当たり前であるかのうように。
彼は婚約破棄などという大きなことを驚くほどさらりと言ってのけたのだ。
「え。そんな……なぜ、どうして……」
「君の瞳の色に耐えられなくなったから、それが理由なんだ」
「えっ……」
モドレッテはこれまでずっと目の色のことは言わなかった。だから彼は理解してくれているのだと信頼していて。この目のことを彼は悪く思っていないのだと思っていた。
でも……違ったの……?
「身体のことを言って悪いなとは思うよ。生まれつきのものだしね。でもさ、やっぱり、好みっていうのはどうしてもあるから。僕は君の目の色には耐えられない。それに、子にも影響があったら嫌だしね」
彼は驚くくらい心なかった。
「じゃ、そういうことだから。さよなら」
そして彼との縁は切れた。
◆
モドレッテに切り捨てられてからしばらくはいつも泣いていた。こんな目なんて、と思い、自分で目を潰そうとしたこともあったくらいで。一人でやたらと色々考えて絶望し、追い詰まっていたのだ。
だが、一年ほどが経つと、段々その傷も癒えてきた。
その頃に父親が誘ってくれたレクリエーション会にて、私は、オードウェンという一人の青年と知り合うこととなった。
それから急速に仲を深めた私たちはあっという間に結婚。
共に生きてゆくことを誓い合った。
オードウェンは私の赤い目を気に入ってくれたので、悪く言われることは一度もなかった――ただ、その目が好きだから目に口づけさせてほしいと言われて困惑したことはあったけれど。
ちなみにモドレッテはというと、私との縁を切った直後目が謎の激痛に襲われたそう。で、医師に診てもらったところ、目の病気ではないかと言われ。手術をすることになったのだが失敗、失明し、また、手術の際に体内に菌が入ったことで徐々に衰弱してしまって。一年も経たず、亡き人となってしまったそうだ。
◆終わり◆




