貴方に愛されたかった……ただそれだけでした、さようなら。~母は娘を殺した男を絶対に許しません~
私は貴方を愛していました。
言葉を交わす、ただそれだけのことでも、世界が煌めいて見えた日――その日、その瞬間から、私は貴方の虜となったのです。
私は貴方の力になりたい。そう思っていました。そして貴方にはできるだけ楽しく生きてほしいとも思っていて。だから、はじめのうちは、貴方が他の女性と関わりを持っていても見なかったことにしていたのです。
けれども、そうしているうちに、貴方の行動は段々酷くなっていって――ついには、私は何日も何週間も放置で他の女性ばかりに時間を捧げるようになっていってしまったのです。
それでも貴方を愛していました。
でも我慢できず。
己の想いを貴方に告げてみることにしました。
けれどそれが間違いだったのです。
「は? 空気が何言ってんだよ。空気のくせにごちゃごちゃ言うなや、文句言うなら俺の前から消えろや」
貴方は怒ってしまい。
「あー、じゃ、婚約は破棄な」
私との関係を終わらせてしまいました。
きっと私が悪かったのだろう。
言い方が間違っていたのだろう。
そう思いはしても、でも、彼の行動にはどうしても納得できませんでした。
どうしてこうも上手くいかないのだろう――そう考えて、私は絶望の海に沈みます。
貴方に愛されたかった……ただそれだけでした、さようなら。
私は死を選びました。
たとえその道が間違っているとしても、それでも、私自身を救うのはその道しかないように思えていたのです。
だから私は生を終えることにしました。
親には申し訳ないと思います。
でももう無理だと。
そう思って、軽い気持ちではなく真剣に、この結末を選びました。
◆
娘の死後、彼女の母親は娘の元婚約者であるナイガという青年に連絡を取った。
母親は怒っていた。
彼が娘を死に追いやったのだと知っていたから。
母親は「少し話があって」と言ってナイガを自宅に呼び寄せた。そして、提供する紅茶へ眠り薬を入れて彼を眠らせ、彼を自宅の地下室に監禁した。頑丈な鎖で四肢を拘束し、動けないような体勢で固定。ナイガがどうやっても抜け出せないような状態にする。
「な……これ、何だよ! 何をしやがるつもりだ!?」
「復讐よ」
「え? え? ちょ、なんで? なんで?」
「娘を奪った貴方を許さないわ」
「や、やめろ! 殺すのか!? 殺すなよ!? 犯罪だぞ!?」
「殺さないわ――そんな楽な思い、させるものですか」
娘を失った母親は深き闇に包まれ笑みを滲ませる。
「貴方にはこれからずっとここで暮らしてもらうわ――いつか老衰で死ぬまで、ね」
それから数十年、ナイガは地下室に監禁されたまま生きた。
毎日拷問のようなことをされ。
死にたいと叫ぶほどであった。
それでも死なせてはもらえず。
ナイガは地獄のような世界で孤独に生きることとなった。
◆終わり◆




