大好きな人ができてしまった、と言われ、十時間以上その話を聞かされた後に婚約破棄されました。……何でしょうね、これ。
「実はさ、大好きな人ができてしまったんだ。僕は彼女のことを愛しているんだ。それがぁ、彼女、とっても美人でね。え? どのくらい美人かって? もちろん、僕の心臓が破裂しそうなくらいだよ。ま、君と比べて表現すると、君が一なら彼女は百億くらいかな! へへ、そんな感じ。とにかく綺麗でさぁ、最高最高最高最高最高な女性なんだよ。もちろん良いところは他にもあるんだけど――」
ある日突然婚約者エッジから大好きな人について聞かされてしまった。
しかも一度話し始めた彼は止まらなくて。
十時間以上もその女性に関する話を聞かされてしまった。
そして、告げられる。
「ということだから、君との婚約は破棄するね!」
彼は無邪気にそう告げて自室へと消えた。
私はその場でぽつんと一人。
でも分かることもある。
私は捨てられたのだ、それは理解できている。
だが疑問はあって。
婚約破棄ってこんなさらりと告げられるものなの?
そんな風に思っている部分はあった。
とはいえ今さら彼にそのような問いを放つことなどできるわけもなく。婚約破棄をやめるよう説得することも叶わず。私はそのまま彼の望みに従い彼の前から消えるしかなかった。
こんな結末のために十時間以上もあんな話を聞かされたの?
そう思うと、虚しかった。
◆
けれども私は折れなかった。
彼のことは忘れて。
前へ未来へ進むために動き続けた。
その結果、私は、良家の子息との婚約を成立させることに成功――結果的には私にとっても家にとってもより良い縁を得ることができた。
あの時切り捨てられたからと諦めなくて良かった。
心の底からそう思う。
人生に谷はつきもの。けれどもそこで諦めてはならない。望みがあるなら、希望があるなら、そのために動き続けなくては。
――いつか読んだ本にはそうあった。
どうやらあの文章は正しかったようだ。
ちなみに、エッジはというと、あの時言っていた女性と結婚するも幸せな家庭を築くことはできなかったらしい。
というのも。
結婚した途端相手の女性が態度を豹変させたそうで。
夫婦となるや否や喧嘩ばかりになってしまったそうなのだ。
そんなある日、いつものように喧嘩をしていた時にエッジが衝動的に妻を殴ってしまい、それによって離婚が決まったそうだ。
しかも、エッジは、殴った罪を償うためのお金を支払うこととなってしまったらしい。
で、今は実家にいるそうだが、酒ばかり飲んで何もしていないそうだ。
◆終わり◆




