貴方が言う女性とは奴隷のことのようですね。私では期待に応えられませんので、貴方の前からは去りますね。
「きみみたいな女性ってさ、華はないし言いなりになるわけでもないし、良いところないよね。男からしたらさ、最低な女性なんだよね。簡単に言うと、男が嫌がる女性、ってやつだね」
婚約者オードベルは私の家へわざわざやって来てそんなことを言ってきた。
「とにかく、きみみたいな超美女でもないのに勘違いして男への忠実ささえ欠いている女性というのは本当に男からしたら本当に本当に不愉快な存在なんだよ。だってそうだろう? 女性の価値というのはどこまで男に尽くせるかで決まるのに、それをしないなんて、不愉快でしかないし完全にごみだよね。生ごみ以下の価値だよね。生ごみの方がまだしも使い道や存在する意味があるよね」
何の話?
そう思っていると。
「で、本題なんだけど、きみとの婚約を破棄することにしたよ」
いきなり重大な内容が飛んできた。
さすがに戸惑う。
あまりに急過ぎて。
「急ですが、何か特別な理由が……?」
「そんなものはないよ」
「えっ」
「理由はシンプル、さっき言ったことだよ。ただそれだけだよ、他の理由なんて何もない」
こうして私は切り捨てられた。
「ま、そういうことだから。急で悪いけど、ばいばい」
オードベルはどこまでも冷ややかだった。
私を切り捨ててもなお悪いなとは少しも思っていないようだった。
こうして、私と彼の時間は終わった。
婚約は呆気なく消滅した。
◆
その後私は結婚するのはやめた。
あんなことを言われ捨てられた後ではどうしても結婚相手を探す気にはなれなかったのだ。
そこで、趣味だった乗馬に注力することにした。なぜそれに力を注ぐことにしたかというと、単にやりたかったからだ。結婚に嫌気がさしていたその時の私にとっては、馬に乗ることが癒やしかつ最高の娯楽だったのだ。だからこそ、その道でなら真っ直ぐ歩めそうだと思ったのである。
その結果、数年で、私は乗馬の全国大会で優勝するまでになった。
ただの女性でしかなかった私は有名人となった。
それを目指していたわけではないけれど。
だが努力してきた結果そういう風になれたのだから努力してきて良かったと思える部分はあった。
そうだ、そういえば。
オードベルはあの後かなり美人な女性に求婚して酷い言葉を並べて拒否され、傷つき、自信を喪失してしまったそうだ。
それ以来、他者が怖くなり家から出られないようになり、家族以外の人間を見ると急激に体調不良が起こるようになってしまったらしい。
また、家の外ではかなり気が弱い一方で家の中では物凄く威張ったり荒れたりで、親に当たり散らして、時には怪我をさせるようなこともあったそうだ。
受け入れてくれている親に当たり散らすとは……なかなか酷い話だ。
私は己のできることで輝かしい人生を得た。
一方彼は己の希望を他者に求めようとしたことで転落した。
◆終わり◆




