近い人に幸福をもたらす能力を持って生まれましたが、婚約相手の王子から形だけの婚約者と言われ我慢しきれなくなりました。
生まれつき『近い人に幸福をもたらす能力』を持っていた私は、国王に目をつけられ、王子エルヴィと婚約させられた。
とはいえ、王子と一緒にいるとなれば、そこそこ良い暮らしはさせてもらえるということで。ならばそこまで知らない彼とでも仕方ないか、と思い、私は彼と生きることを受け入れることにした。
だが、彼は私を一切愛さず、私の能力による幸福だけを享受しようとした。
それは許せなかった。
酷いくらい雑な扱いはしておいて幸福は与えろと言うのか?
段々腹が立ってきてしまった。
受け入れたつもり、理解しているつもりでも、複雑な思いは消えなかった。
そんな中で迎えたある日、エルヴィが女性を連れて私のところへやって来る。
「俺、これから彼女と生きるから、お前は形だけの婚約者でいてくれよ」
そして、はっきりと、そんなことを言われてしまった。
「……さすがに、はっきりと言われると、嫌です」
「はぁ? 俺と一緒になれると思ってんのか? 馬鹿だろ。お前みたいなやつ、能力さえなけりゃ誰も相手しねぇ」
「そんな言い方……!」
「あーうざ、あーはいはい、分かった。じゃ、婚約は破棄な」
「え」
「聞こえなかったのか? 婚約は破棄!! って言ったんだよ。余計なことを言うやつは要らねーんだよ。じゃあな、ばいばい」
こうして私は城を出ることとなった。
でもいい。
あんなところで形だけの婚約者として能力の益だけを吸い取られるなんて嫌だから。
そんなことになるくらいなら、関係なんて終わった方がまだましだ。
◆
その後私は行きつけの茶葉店にて常連客同士として知り合った男性と結婚。
今は彼の両親も合わせて四人で生活している。
彼の母親がずっと娘に憧れていた人で、私と一緒に暮らしたいと希望した。そのため、四人で暮らすという独特の形となった。
でも、彼の母親はとても良い人。
だから彼女も含めて一緒に暮らせることを嬉しく思っている。
一方、エルヴィ王子はというと、あの後すぐにあの時の女性とは上手くいかなくなったそうだ。
しかも急に逃げられたらしい。
もしかしたら、女性との良い関係を得られたのも私の能力ゆえだったのかもしれない。
で、愛していた女性に逃げられた彼は憂鬱感に定期的に苛まれるようになり、今はそのための薬を飲み過ぎて薬漬けになってしまっているそうで。酷い副作用に悩まされ、生活するだけでも辛いような状態となっているようだ。
◆終わり◆




