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婚約破棄され、雨が降る。
婚約破棄され、雨が降る。
これは心に降る雨か? 否。雨は雨、本物の雨だ。あの天から降り注ぐ水、一種の液体のようなもの、青黒いそれ。それこそが雨。悲しみの涙か? いいや、これは雨。雨粒は確かにここに在り、青と黒の水彩絵具を混ぜたようなそれがこの身を濡らし悲しみの色に染め上げてゆくのだ。
今朝、私は婚約破棄された。
そして今。
家の前の見慣れた庭にて雨を浴びている。
心が濡れているのか。
身が濡れているのか。
もはやそれすらも分からぬような思考の中で、私はただ佇み、雨粒をこぼす灰色の空を見上げる。
あぁ、まるで、あの空は私の心のよう……。
きっと私の心もあんな色をしているのだろう……。
婚約破棄され、雨が降る。
あの空は私の心。
私の心はあの空。
鏡に映し合う、悲しみ。
◆終わり◆




