婚約者の母親から虐められていましたが、その母親から「私の息子に相応しくない」と言われて婚約破棄も告げられました。幸運でした。
ルーエンと婚約した私は、彼の母親から虐められるようになった。
お茶に虫をたくさん入れられたり。服をごみと呼ばれたり。出自を敢えて悪く表現するようなことを言いふらされたり。
ルーエン自体にはそこまで問題はないものの、その母親に気に入られなかった私はかなり酷い目に遭った。
「貴女、私の息子に相応しくないのよね。だから、私の息子と別れてちょうだい。貴女と息子の婚約は破棄、いいわね! ……もう二度と息子に近づかないでちょうだい、貴女みたいなおかしな女は私の息子には相応しくないのよ。つり合わないのよ」
その日、私は、ルーエンの母親からそう告げられた。
婚約破棄……それはあまりにもいきなりで。
けれども辛くはなかった。
悲しいということもなかった。
むしろ、嬉しさもあった。
だってそうだろう? 嫌がらせばかりされてきたのだから。酷い目に遭わされてもなお愛を貫く? ルーエンのためにそこまでする勇気と愛は私にはない。ルーエンとの婚約が破棄となったならあの母親に虐められることもなくなる、それは嬉しいことだ。
「分かりました。それでは、失礼します」
私はルーエンとの関係を終えることにした。
その方が自分のためになると思ったのだ。
たとえ婚約破棄されたという事実を背負うことになったとしても虐められることを回避できるなら痛くはない。
◆
その後、私はちょっとした出来事をきっかけに王子と知り合い、気づけば彼に愛されていて――流れに乗るように生きていたところ、いつの間にやら彼と婚約することとなっていた。
「これから、よろしく。あの日助けてくれた君と生きられることになって嬉しいよ」
王子は私と結ばれることを嬉しく思っているようだった。
私だってそうだ。
嬉しい気持ちはある。
「あ、はい。ありがとうございます。嬉しいです」
「……棒読みじゃない?」
「えっ。いやいや、そんな。そんなことないですよ」
喜びを表現するのが下手なだけである。
「本当に? 大丈夫?」
「はい! もちろんです!」
こうして私は王子と結ばれた。
◆
そういえば、あれからだいぶ経ってから知ったのだが――ルーエンとその母親は馬車の事故で亡くなったそうだ。
母親が厄介なこともあって友人も恋人もほとんどいなかったルーエンは、母親とずっと二人で生きていたようなのだが、外出のため乗っていた馬車で事故に遭ったことで共に落命することとなったようである。
ちなみに、ルーエンは即死だったそうだが、母親は酷い状態で数時間苦しんでからの死亡となったそうだ。
◆終わり◆




