すぐに煽ってくる妹は婚約破棄されて壊れました。逆に私はちょっとした出会いから幸福を手にすることとなりました。
「お姉様! あたくし、エッグ様と婚約しましたの! うふふ、お姉様ったら羨ましそうね! うっふふふ!」
妹リリイが急にそのようなことを言ってきた。
聞けば、エッグという良家の息子との婚約が決まったらしい。
姉より先に妹が結婚することを良く思わないという思想の者もこの世にはいるらしいが、私としてはそういうところはそれほど気にしない。生まれた順番に添って結婚することがすべてとは思わないし。それぞれ縁に恵まれた時に進めば良いと思うのだ。
「ま、お姉様のことだもの、結婚なんて一生できないでしょうねぇ、うふふふ! 羨ましい? 羨ましい?」
ただ、いちいち煽ってくるところは鬱陶しいと思ってしまうけれど……。
「幸せになってね」
「ええ! うふ、強がりかわいいー」
でも、彼女には彼女の人生があるのだから、そこは自由にすれば良い。
◆
二週間後。
「いやああああ!」
リリイが急に大声をあげながら家へ帰ってきた。
「どうしたの?」
「お母様ぁ! エッグ様に婚約破棄されたのぉ! ひどぉい! 酷いいいいぃぃぃぃぃぃぃ!」
「と、取り敢えず、落ち着くのよ」
「いやああああああああ! もういやああああああ! 死ぬの死ぬの死ぬのぉぉぉぉぉぉぉ!」
どうやらリリイは婚約相手エッグから婚約の破棄を言いわたされたようだ。
ちなみに、その理由は、毎日のように煽ってくるのが鬱陶しくてもう関わりたくないから、というものだったようだ。
それはちょっと分かる……と思ってしまった。
リリイはことあるごとに煽るようなことを言ってきていたが、それは私に対してだけかと思っていた。しかしどうやらそうではなかったようだ。婚約破棄されるくらいだから、彼にもかなりやったのだろう。
ま、ある意味自業自得とも言えるのだが。
それからというもの、リリイは毎日のように暴れては号泣して死ぬと言うことばかりを繰り返していた。
両親はそんな彼女につきっきり。
私なんていないも同然の扱いだった。
同じ娘なのになぁ、と思いながら、私は散歩したり街へ出掛けたりして時間を潰していた。
そんなある日、私は、一人で出掛けた先の街にて足首を痛めていた一人の青年を助けて。それをきっかけに、王子と婚約することになった。というのも、足首を痛めていたその青年が実は王子だったのだ。彼は身分を隠しこっそり城を抜け出して街へ繰り出していた時に足を痛めたそうで。そこにたまたま通りかかって助けたのが私だったのである。
「王子の妻になるなんてややこしくて面倒臭い、そう思う人もいるだろう。だから僕は君の意思を尊重する。どうか、本当の気持ちを聞かせてほしい。僕と一緒になるのは嫌だろうか?」
想定していなかったことになってしまったけれど。
「ぜひ、よろしくお願いします」
私は彼と行く道を選ぶことにした。
偶然出会った。
そしてたまたま助けた。
これも何かの縁。
「誇れるような家柄の娘ではありませんが……」
「これからの時代、家柄なんて気にしない」
まだ何も分かっていないけれど。
ここは思いきって進んでみようか。
◆
その後、王子と結婚した私は単身王都へ引っ越した。
これからは城で暮らす。
そこに相応しい女にならなくては。
でも、夫となった王子はいつも私の心を癒やすような言葉をかけてくれたので、とてもありがたかったし過ごしやすかった。
幸い、侍女たちも親切で。
周囲に恵まれ。
城での暮らしに段々慣れていった。
一方リリイはというと、あれから一年以上が経った今も一日のほとんど自宅内にて過ごしているらしい。しかも、何かやりたいことをやっているわけでもなく、充実なんてしていなくて。することといえば、号泣することと暴れることと親に当たり散らすことと自殺をほのめかすことくらいだけ。日々親に迷惑をかけ続けているらしい。
特に、私と王子の結婚が決まってからは荒れ方が悪化しているとのことだ。
とはいえもはや私には関係のない話だ。
そちらはそちらで好きなようにすればいい。
◆終わり◆




