欲しいものはすべて手に入れてきた妹は惚れていた青年との婚約も手に入れたのですが……余計なことをしてしまったことで婚約破棄され、荒れました。
私の妹ベベリーナは親から愛され欲しいものはすべて与えられて育ったためにわがまま娘になってしまった。
彼女は欲しいものは一つ残らず手に入れたいタイプ。欲しいものを手に入れるためなら手段は選ばず親の力も使う。そして、少しでも上手くいかないとすぐに感情的になり激怒し始める。また、周囲に当たり散らす。
そんなベベリーナが最近手に入れたのは婚約者だ。
彼女はとある晩餐会で知り合ったカルクという青年に惚れ、彼と生涯を共にしたいと言い出した。で、両親に彼と婚約できるようにするように、と指示を出して。両親が必死になって交渉を重ねたことで、ベベリーナはカルクと婚約できることになった。
「お姉さま! 聞いて! あたくし、カルク様と婚約することになったの!」
婚約が決まった日、自慢してきた彼女の嬉しそうな顔を今でも覚えている。
「やっぱりあたくしって魅力的な女なんだわ。……お姉さまと違って」
そんな嫌みも吐かれてしまったけれど。
でも、彼女がご機嫌なのはありがたかった。
彼女が不機嫌にならなければ当たり散らされずに済むから。
それからというもの、ベベリーナは毎日のようにカルクの家へ通っていた。
だが、やがて、暗雲が立ち込める。
カルクの対応が若干冷たいままだったのだ。
ベベリーナは満足できなかった。
「カルク様……どうしてこの可愛いベベリーナにもっと積極的に関わってくださらないのかしら……。婚約者だというのに……」
婚約者から愛されていない寂しさを抱えたベベリーナは、やがて、過去に付き合っていた男性と夜間に会うことを繰り返すようになる。
それから数週間が経ったある日、ベベリーナはカルクから「なぜ男と夜に会っているのか?」と聞かれたらしい。嫉妬されている、と嬉しかったベベリーナは、調子に乗って「貴方が構ってくださらないから身も心も寂しくて……」と言いながら本当のことを話してしまった。
その時は「あまり深い関わりを持たない方が良い、一応でも婚約者がいる身なのだから」と言われたそうだが。
けれどもベベリーナは過去に付き合っていた男性との関係をやめはしなかった。
で、それから数週間後、ベベリーナは急にカルクに呼び出される。
その場で、カルクは、ベベリーナが今も他の男性と友人を遥かに越えた深い関係になっている証拠を出して、婚約破棄を告げた。
ベベリーナは泣きながら帰ってきた。
「婚約破棄……される、なんて……酷い……きっと、これも……お姉さまみたいな、不幸の神を背負った女が……近くにいたせい、だわ……」
号泣していた彼女はいきなりそんなことを言ってきた。
なぜ私のせいなのか?
他の男と遊んでいて婚約破棄されたのが私のせい?
不幸の神?
いやいや話が飛び過ぎだろう。
それに、そんな話、何の根拠もないではないか。
なのに責められるなんて……なんかなぁ、理不尽だ。
その日以降、ベベリーナは一日中自宅にいるようになったのだが、彼女はかなり荒れていた。とにかく情緒不安定で。大人しくしくしく泣いていたかと思えば、両親や姉である私が悪いかのようなことを大声で主張し始める。さらには自室で暴れることもあった。
私はなるべく出会わないようにしていたが、娘を放っておくことなどできない両親はベベリーナと関わらざるを得ず、日々暴力の的となっていた。
腕力のない母親はもちろんだが、父親でさえも椅子で殴られたり割れたガラス片で傷つけられたりしていたようだ。
その後私は家を出て家族とは縁を切った。
比較的近いところにある街で一人暮らしを始める。
そして、一人暮らし開始から数ヶ月が経った頃に出会った一人の青年と仲良くなり、彼と結ばれることとなった。
彼と彼の家族は私の家庭の事情を理解して受け入れてくれた。
その後ベベリーナらからの被害を受けることはなかったけれど、知人を通じて聞いた話によれば、あれからベベリーナの暴れる行為は日に日にエスカレートしていったようだ。で、ある時暴れている最中に勢いあまって吹き抜けになっているところの二階の手すりの上に乗るようにして転落。その転落によってベベリーナは落命したとのことだ。
ベベリーナの運命と死を切なく思いつつも、両親は「これでもう殴られたり傷つけられたりしない」と安堵していたそうだ。
◆終わり◆




