彼が婚約破棄を告げた瞬間、イコール、彼が死ぬ時です。
私には婚約者がいる。クルコという名の、二つ年上の茶髪の男性だ。彼と私は婚約者同士なのだが、彼は私を良く思っていないようで、ことあるごとに私に対して嫌みを言ってくる。出会った頃から今まで、彼はいつもそんな感じだ。彼は、口を開けばいつも、私に嫌な思いをさせるようなことを発するのだ。
「お前さぁ、ほんとさぁ、馬鹿っぽいつらしてるよなぁ」
彼に呼び出されたと思ったら、いきなりそんなことを言われた。
優雅にベッドに寝転びながら嫌みを言ってくるとは。
どうしたらそんなに性格が悪くなれるのだろう。
「何ですかいきなり。失礼ですよ。そんなことを言うなんて」
「失礼? は? 事実しか言ってないだろ。あ、あれか! 本当のことを言われたから怒ってるんだろぉ? それなら納得っちゃあ納得だな、はは!」
「はぁ……」
「何だ? 溜め息? ふざけんなよ! そういうとこだよそういうとこ、そういうところが可愛くないんだってぇ。女なら男の前ではいつも明るく忠実に振る舞えよぉ」
彼は横にしていた身体を縦にする。
「てことで、婚約は破棄な!」
彼がそう言った瞬間。
窓から丸太が飛んできて、彼の頭部に激突した。
「えっ……」
私は思わず声を漏らしてしまった。
ぺしゃりと床に落ち倒れたクルコ。そこへ大量のカラスが現れた。カラスたちは気絶して倒れているクルコにたかり、生ごみを漁るかのようにつつきまわす。赤いものや体液が垂れてもお構いなし。カラスたちは心ゆくまでクルコをつつくことを楽しんでいた。
カラスのつつきは数分にわたって行われた。
で、やがてカラスたちは去っていった。
けれどもその時にはもう手遅れ。
時既に遅し。
クルコは息絶えていた。
◆
あれから数年、あの頃はまだ一人の女でしかなかった私にも家庭ができ子ができ、今は忙しい日々の中にある。
けれども、愛する人と巡りあえたことは嬉しいことだし、その人と共に生きてゆけることも嬉しくありがたいことだ。
当然、これから先、苦労だってあるだろう。
それでも一個ずつ乗り越えていこうと。
そう思うことができる。
◆終わり◆




