魔力を持って生まれたために婚約破棄された私は、その後意外な出会いと幸福に恵まれました。
「君みたいな魔力を持っている女とは共に生きていくことなんてできない。よって! 婚約は破棄とする!」
その日、晩餐会にて、婚約者エリシサから急にそんなことを宣言されてしまった。
周囲から引かれつつも笑われているのが分かる。
気の毒に思われつつもどこか馬鹿にされているのだ。
でも、周囲が悪いわけではない。
こんなところでエリシサがいきなり婚約破棄なんて言い出すからこんなことになるのだ。
「そんな……急ですね、どうして」
「我が母が言っているんだ『魔女を家に入れるなんて恐ろしい、絶対にやめろ』と」
母親のせいか……。
いい年して……。
「母は僕が君のような魔女と結ばれることを不安視している。よって、婚約は破棄とすることにしたのだ。偉大な我が母を不安にさせるようなこと、僕にはできない。なんせ、僕は親孝行な男だからね」
親孝行、とか、自分で言うものか?
だが、私が魔力を持っていることは事実だし、生まれつきあったそれをなかったことにすることはできない。そして、彼の母親がその点を嫌がっているのなら、彼女が私に理解を示す日はきっと来ないだろう。
「ま、そういうことだから。婚約はもう破棄、これで僕と君は無関係だ」
「承知しました。では……私はこれで失礼いたします」
これは仕方のない展開だったのだ。
良い方向へ話が進むことはない、そう思って諦めよう。
「可哀想にねぇ~、こんなところで」
「まぁでも魔女なんて無理よね」
「ほーんとないわぁ。よく魔女と一旦でも婚約なんてしたものよね」
そんなひそひそ話が聞こえたけれど、聞かなかったことにした。
いちいち真面目に聞いていては心がすぐに折れてしまいそうだから。
◆
その後私はちょっとしたきっかけから王子と知り合って気に入られ、交流を重ねていたところ「貴女のような素晴らしい力に恵まれた女性と共にこの国の未来を切り拓いていきたいと思っていた」と言われ、求婚された。
で、私は戸惑いながらもそれを受け入れることにした。
これまで魔力を持っていて得したことはあまりなかった。それに関してごちゃごちゃ言われることはあっても、それに関して褒められたり何か良いことがあったりということはなかったのだ。
でもついに魔力を持っていて得する時が来た。
この時のためにこれまで耐えてきたと思えば……報われたと思える気がした。
◆
そうして私は王子と結ばれ、数年が経った今も彼と愛し合って生きることができている。
当然彼も暇ではないのでなかなかゆっくり会えない時期もある。
けれども心は通じ合っている。
会えた時にはどんな二人よりも心通わせて楽しく過ごすことができるのだ。
そうそう、そういえば、エリシサとその母親はあの後自宅で落石に巻き込まれて死亡したそうだ。
私がそこにいれば、きっと、魔法で落石を砕くくらいはできたはず。それができれば恐らく彼らは助かっただろう。私の魔法があれば下敷きになったまま放置されることはなかっただろうから。
とはいえ、そんなことを考えても意味などない。
どんな悲しい末路だとしても。
それは彼らが選んだ道だ。
だから彼ら以外の誰にも責任はない。
私は私の道を行く。
夫である王子と共に。
◆終わり◆




