婚約破棄され死を選んだ令嬢、死後一時的に蘇り、元婚約者とその相手である女性に復讐する。
ルルネリアは裕福な家の生まれの穏やかな令嬢であった。
善良で、心優しく美しい、そんなだから周囲からの評判も良く。
皆から愛されて育った。
けれども婚約者となった青年アボデストとは相性が悪くて。
ルルネリアは失礼なことは何もしていないというのに、アボデストは彼女を嫌っていた。
そして、ついに。
「ルルネリア! お前との婚約は破棄する!」
耐え切れなくなったアボデストはそう宣言した。
「婚約破棄……どうしてですか、そのようなこと」
「何を言う! お前みたいな女は大嫌いなんだ! 美人だからって調子に乗るなよ。すべての男がお前に惚れるわけではない! それを理解しろよな、愚かな女!」
「お待ちください、私はそのようなつもりは……」
「黙れ! そしてさっさと出ていけ! 二度と俺の目の前に現れるな!!」
こうして切り捨てられたルルネリアは、悲しみの海に沈み、その日の晩に自ら死を選んだ。
◆
「ここは、一体……」
気がついた時、ルルネリアは、知らない真っ白な場所にいた。
『ルルネリア、貴女に真実をお見せしましょう』
ルルネリアの前に現れたのは一人の女性。
女神という言葉が似合うような容姿の人物。
「しん、じつ……?」
『えぇそうです。アボデストがなぜ貴女にあんなことを言ったのか、真実を知れば分かるでしょう』
「……はい、お願いします、私もよく分かっていないのです」
『ではこちらを見てください』
そうしてルルネリアが見たのは、他の女といちゃつくアボデストの姿だった。
『アボデストさまぁ、あの婚約者、ついに捨てることに成功しましたの?』
『あぁやってのけたよ。婚約破棄してやった。でもさ、そしたらさ、自殺しやがったんだ。わっけわかんねーよな』
『婚約破棄されただけで死を選ぶなんて愚かな女ね! やっぱり、アボデストさまには相応しくないわぁ』
『俺に相応しいのはお前だけだよ』
『いやぁーん! 照れちゃうわー!』
馬鹿みたいにいちゃつくルルネリアは最初は信じられない思いでそれを見ていた。が、次第に怒りの炎を抱えるようになり。復讐を望むようになった。そんなルルネリアに対し、女神のような女性は力を与えた。人を死へ至らせる力を。
そうしてルルネリアは舞い戻った、地上へと。
◆
その後ルルネリアはアボデストの相手の女性の家へ行った。
「はじめまして」
「えっ……あ、あんた、死んだんじゃ……」
「やはりご存知のようですね」
「どうしてここに」
女性は驚いていた。
だがそれも無理はない、死んだはずの女性が急に尋ねてきたのだから。
「一体何なの……って、ぎゃっ!!」
ルルネリアは片手で女性の首を掴む。
掴んだところから溢れ出すのは青白い炎。
「やっ……やめ……何よ、これ……や、やめな、さい、よ……っ」
「裏であんなことを喋っていたなんて知らなかったわ」
「っ、んぐ、や、め……」
「驚いたわ。私は何も知らなかったのね。じゃあこれで……さようなら」
「ちょっ……も、燃え……いやぁぁぁぁぁぁ!!」
悲鳴を聞いて女性の父親が駆けつけた時、そこには女性の亡骸だけが置かれていた。
ルルネリアの姿はなかった。
◆
数日後、ルルネリアはアボデストのもとへ現れる。
愛する女性の死を聞いて弱りきっていたアボデストは、ルルネリアの姿を見ると「俺も死にたいんだ、せっかくだからあの世へ連れていってくれ」と懇願した。
だが、それを聞いて、ルルネリアは彼を殺めることはやめた。
死を望むなら死を与えても意味がない。
そう思ったからだ。
ルルネリアはアボデストを西の山へと連れ去った。
そしてそこにある木の一本にくくりつけて。
以降、彼女は、アボデストを死なない程度に痛めつけ続けた。
彼は十秒に一回程度の頻度で「お願いだ、死なせてくれよ」と泣きながら頼んでいたけれど、ルルネリアは死なせなかった。ルルネリアは躊躇なく痛めつけ続けた。来る日も、来る日も。
それから数週間が経ち、アボデストはついに絶命した。
「私の心の痛み……少しは理解していただけたでしょうか」
そう呟いて、ルルネリアは消えた。
◆
こうして無事復讐を終えたルルネリアは、再びあの世へ行き、穏やかに眠ることができた。
その時の彼女は穏やかな精神状態だった。
◆終わり◆




