歌うことが好きだった私は婚約者に捨てられましたが、歌手として成功しさらには王子と結ばれることになりました。
幼い頃から歌うことが好きだった。
歌えば皆が褒めてくれて。
それも嬉しくて。
思えば私はいつも歌っていた。
人前でも、一人でも、歌と共に生きていた。
「歌なんかを趣味にしているなんてサァ、良家の令嬢としてどうかしてるよネェ。婚約者として恥ずかし過ぎて胃が溶けそうだヨォ。ってことで、君との婚約は破棄するかラァ。いいよね? 歌なんかを趣味にしてるそっちが悪いんだもんネェ」
でも、私の趣味は、婚約者プペペには理解されなかった。
彼は「歌なんて良い身分の女性がすることじゃない」という思想の持ち主で、最初から私が歌うことを得意としていることを良く思っていないようだった。が、これまではそこまで強く言われはしなかった。だから少々油断してしまっていたのだけれど。
どうやら、よっぽど嫌だったようだ。
「そんなに嫌ですか?」
「あぁ嫌だネェ」
「なぜそこまで嫌がるのですか? 世の中では歌うことは悪いこととはされていませんよね?」
「嫌なものは嫌なんだヨォ!! 黙れクソ女!! くだらねぇことばっかしておいて偉そうに言い返すんじゃないヨォ!!」
……それが本性か。
私はプペペと離れることを決めた。
「分かりました。では私はこれで去ります。さようなら」
プペペのためにこれまでの私のすべてを捨てることなどできない。どちらも取れれば理想的だったけれど、どちらかしか取れないのなら私は迷わず歌を取る。プペペとの関係より歌うことの方が大事だ。
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その後私は王子に気に入られたことで有名歌手へと飛躍した。
今や一夜にして凄まじい額を稼ぐ。
それから数週間が経った頃、大金持ちとなった私のもとへプペペがやって来た。嫌みでも言いに来たのかと思っていたのだが、どうやらそうではないようで。彼はやり直したいと言ってきた。もう一度婚約しよう、と、平然とそんなことを言ってきたのだ。
もちろん、断った。
「私は歌を捨てる気はありませんので貴方には相応しくないと思いますよ」
「いや、いいんダァ。お金があるなら別だヨォ。稼ぐならネェ。趣味程度ならやめてほしいけドォ、それで儲かるなら話は別なんだヨォ」
「お断りします」
「ええ!? どうしてなんダィ!?」
「お帰り下さい」
もう終わった関係だ。
今さらやり直そうとしても無駄。
それからしばらくして、私は、王子から結婚を申し込まれた。
もちろんイエスと答えた。
私の歌を理解してくれた人、私の好きを無視しなかった人――私はそういう人となら共に歩んでいきたい。
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ちなみにプペペは、王子が歌手である私と結婚することを強く批判し王子や私のことを侮辱したことで拘束され、それらの行為があまりにも酷かったため公開処刑された。
◆終わり◆




