婚約破棄された私は実家へは戻らず生きてゆくことにしました。もう放っておいてください。
「エリーナ! 神のような魅力と才能を持たない君とはもうやっていけない!」
思えば、何かとついていない人生だった。
「婚約は破棄とする!」
婚約者ブルーノに婚約破棄された。
でもそれだけじゃない。
それだけのことでついていない人生だったと言っているわけではない。
親は口煩い人たちで。ことあるごとに私を貶めた。情けない、とか、どうしてそんなに優秀でないんだ、とか、異性人気がないということは女として価値がないということだ、とか。そういうことをやたらと言われて育ってきた。
そんな親に婚約破棄されたと告げたら……きっとまたボロクソに言われてしまうことだろう。
それを想像するだけでも溜め息が出る。
今から憂鬱だ。
それでも帰る場所はそこしかないから仕方ない……そう思っていただろう、これまでの私であれば。
でも、この時の私はそうは思わなくて。
実家から離れるなら今しかない。
そう思って。
私は実家へは戻らないことにした。
そうして私が森の近くを歩いていたところ、一人の女性に巡り会った。
「何をしているのかしら? こんなところで」
女性は魔女だという。
森に住んでいるらしい。
私もそんな風に自由に生きてみたいなぁ……なんて思ったり。
「婚約破棄されて……でも、実家へ帰ったらごちゃごちゃ言われそうで嫌で……だからもう家には帰らないことにしたのです」
「こんなところにいちゃ危ないわよ?」
「どうなっても構いません。私はもうあそこへは帰りたくないのです」
「ああもうわがままね。ま、いいわ。一旦うちへ来なさい? うちなら安全だから」
こうして私は魔女の家へ入れてもらえることになった。
◆
それから一ヶ月ほどが経過したある日、私は、魔女から復讐が済んだことを聞いた。
彼女は私が知らないうちにブルーノと私の両親に復讐してくれていたようだ。
ブルーノは詐欺師に騙され長年貯めてきていた貯金をすべて失ったそうだ。また、そのショックで精神的にどうにかなってしまい、奇声を発することしかできないような状態になってしまったそうだ。それまでの記憶もどこかへ行ってしまい、今は親に介護してもらっているらしい。が、親は彼を施設へ入れることを考えているそうだ。
そして、私の両親はというと、父の浮気が発覚したことで関係が崩壊し離婚したそうだ。
母はショックを受けて心を病み、体調も崩し、風邪をこじらせてしまったことで亡くなったとのこと。娘をそんな風にされた母の父親は激怒し、権力を使って元父を拘束し罰として自立した生活ができる能力を奪ったらしい。
「ま、そういうことだから、全部解決したわよ」
「ありがとうございます……!」
その後、私は、生涯を終えるまで魔女と共に生きた。
人間である私の方が先に死ぬことにはなったけれど。
彼女との時間は幸せなものだった。
◆終わり◆




