少し美人だからといって婚約するんじゃなかった、と言われ、婚約破棄されました。しかしその日の晩に……。
「貴様のような忠実でなくさらに共にいることでの利益もない女、少し美人だからといって婚約するんじゃなかった。そう後悔していたのだが、勇気がなく今までは言い出せなかった。だが結婚してからでは手遅れになってしまう。なのでここらではっきりさせようと思い立ち、今日は貴様を呼び出した」
燃えるような赤髪の婚約者フェンムが告げる。
「本日をもって、貴様との婚約は破棄とする!!」
宣言した彼はやりきった子どものような顔をしていた。
しかも。
鼻の穴を大きく広げて。
はすはすいっている。
婚約破棄を勝負か何かかと思っているのだろうか?
だとしたら愚かなことだ。
婚約とか、婚約破棄とか、そんなものは戦いなどではないというのに。
それに気づけないとは、どこまでも憐れである。
「いつまでそこにいる気だ?」
「え」
「婚約破棄、だぞ。貴様の年ならどうすれば良いかくらい分かるだろう? ああそうか、貴様の知能では無理か。まあそれもそうかもしれないな、貴様は知能が見るからに低いからな」
一方的に貶めるのはやめてほしいのだが……、でも言っても無駄か。
「さっさと立ち去れ!!」
急に叫ばれる。
突如発された大声が、空気を揺らし、古い壊れそうな窓枠をがたがたと鳴らしていた。
私は一言「分かりました」とだけ返しその場から立ち去った。
それ以外に方法はないと思ったからだ。
今の彼に何を言っても無意味だろう、ならばとっとと離れるしかないというものである。
これからのことはその後でゆっくり考えれば良い。
◆
フェンムに婚約破棄された私は両親と妹がいる実家へと帰った。
しかしその日の晩不思議なことが起こる。
ベランダで星空を眺めていたら謎のガラス片のようなものが降ってきたのだ。
「何これ……」
不気味に思いながらも何かの運命だろうと思いそれをこっそり所持していると。
翌日。
朝から響いてくるファンファーレ。
何事かと思っていたら、謎の隊列がうちに向かって進んできていて。
「そちらの家のお嬢さんが試しの欠片を手に入れられたそうですね! ということは、我が王の妻はそちらのお嬢さんになります!」
「え、あの、家を間違えているのでは……」
「いいえ! まずは、欠片を入手なさったお嬢さんご本人と話をさせてください」
「うちにはそのような者はいません」
対応する母親は困り果てていた。
「待って!」
思わず飛び出していってしまう。
「欠片とは、これのことですか?」
私は隠し持っていたそれを出して見せる。
「やはり! 間違いではなかったようですね!」
「これは昨夜降ってきたものですが……」
「そう! それこそが試しの欠片なのです!」
試しの欠片、か。
よく分からないけれど。
「お嬢さんこそが、我が王の妻となるお方です!」
何だこれ、急展開過ぎる。
その後話を聞いているうちに、訪問してきた者たちは他の星から王の妻探しにやって来た宇宙人であることが分かった。
宇宙人なんて信じていなかったけれど。
でも実際その姿を見たら。
少しは信じられるような気もしてきて。
その後私は彼らの王であるポピピストポピと結婚することになった。
◆
ポピピストポピの妻となるべく星を出発する日の朝、少し早めに出発地点へ向かうと、フェンムが女を連れてきていた。
「どうして……」
「ふん、一応見送りにきてやっただけだ」
「あの……結構です。お帰りください」
わざわざ女を連れてまで来ないでください……。
「貴様! 礼も言えないというのか! 生意気な女め!」
殴られる!
その時。
近くに置かれている宇宙船から一人の宇宙人が出てきて。
「王の妻たるお方に手を出すな!!」
その宇宙人は指からビームを放った。
それは見事にフェンムの眉間に突き刺さる。
彼はばったり倒れた。
隣の男が瞬殺され、悲鳴をあげる女。
「いやぁぁぁぁぁぁッ!!」
無理もないか、知り合いが目の前で殺められたら誰でも……。
「あなたぁぁぁぁぁッ!! あたしを残して死なないでぇぇぇぇーッ!!」
直後。
女は走り出し宇宙人に襲いかかろうとする。
「人殺しぃぃぃぃぃ……殺してやるぅぅぅぅぅぅぅッ!!」
が、すぐに脳天を撃ち抜かれた。
彼女もまたばたりと倒れ、赤いものを流し、二度と起き上がらなかった。
◆
その後、私は宇宙人の王ポピピストポピと結婚し、彼の星で穏やかに暮らすこととなった。
最初のうちは生まれ育った地と異なる文化環境に戸惑いもあった。
でもそれも少しの間だけで。
しばらくすれば徐々にではあるけれど適応していくことができた。
今はもうほぼ何も困っていない。
◆終わり◆




