すぐ怒る厄介な婚約者なら貴女にあげますよ。~奪い取りたいならどうぞご自由に~
いつからだろう、私は妹リリエから虐められるようになった。
姉のものは自分のもの、彼女はそう思っているようで。彼女はいつも私のものを奪い取っていた。それも、それが当たり前であるかのように。
そして、彼女は、私の婚約者をも奪い取った。
私にはエルベという婚約者がいたのだが……。
「エルベ様はわたくしのものですわ! お姉様はもっとダサい男と結ばれれば良いんですのよ!」
彼もリリエに奪われた。
「婚約者を奪うとか、さすがに酷いわ」
「はぁ? なーに勘違いしていますの? エルベ様に相応しいのはわたくしに決まっているでしょう!」
「そう……ま、そうね、分かったわ」
「そういうことですわ! では!」
けれども、エルベに関しては、妹に貰ってもらえると嬉しい。
なぜなら彼は少々怒りやすい人だからだ。
彼は顔面は悪くないのだけれど性格に難がある。
だから妹に貰ってもらえるならその方がありがたいのだ。
リリエは何も知らないからエルベを素晴らしい男性だと思っているのである。
私とエルベの婚約は破棄となり、代わりにリリエがエルベと婚約することとなった。もとより私より妹を可愛がっている両親は、リリエが望む相手と結ばれたことを大層喜んでいた。
まぁいい……呑気に喜んでいられるのも今のうちだけ……。
その婚約破棄を機に、私は家を出ることにした。
これを機に自由に生きていきたいと思ったからである。
私は単身都会へと出た。
◆
その後、私は都会で働きつつ愛する人に出会い、彼と共に生きていくこととなった。
ここにいれば妹に奪われることもない。
それが何より嬉しかった。
それに、妹が近くにいないことで心理的な余裕が生まれて、これまでよりかなり気分が楽だった。
こうして幸せになれた私とは対照的に、妹リリエは幸せにはなれなかったようだ。
彼女はエルベと結婚したのだけれど、すぐに夫婦喧嘩が絶えない状態になってしまい、毎晩のように二人は言い争いになっていたそうだ。
で、そんなある日、激怒したエルベは家の中で暴れ始めて。
リリエはそれによって負傷。
それ以来夫を恐れるようになってしまったそう。
しかし、離婚したいと言うと激怒されるので怖くて言い出せず。
リリエは今もエルベと一緒に暮らしているようだが、日々夫に怯えるだけの日々だそうだ。
◆
それから二年、エルベとリリエが離婚したという話を聞いた。
何でも、ある日の晩エルベがリリエを殺そうと包丁を振り回したことが原因となって、二人は離婚することとなったそうだ。
リリエは実家へ戻ったようだけれど。
心の傷は既に深くなっていて。
今は悪夢と酷い不眠症に悩まされていて一日のほとんどの時間を実家の自室内で暮らしているそうだ。
また、エルベに襲われると叫んで急に悲鳴をあげることもあるらしい。
一方のエルベはというと、リリエを追って一度リリエの実家にまで押し掛けたそうだが、その時に刃物を所持していたことで治安維持組織に拘束されたそうだ。
で、今は、更生という名のもとに日々拷問のようなことをされているらしい。
◆終わり◆




