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わがまま妹が不幸になったのは自業自得です。~私は奪われた側、非はありません~

 私には妹がいる。


 二つ年下の彼女は、やや気が強そうに見える顔立ちの私と違って小柄なうえ愛らしい顔立ちで髪も綺麗、そのため両親から大切に大切にされて育った。


 そのせいもあってか、彼女はとてもわがままだ。


 確かに顔は可愛い。守りたくなるような小ささというのも理解はできる。が、見た目からはとても想像できないくらい、性格はよろしくない。気はとても強く、一度勝てると思った者には躊躇なく口で攻撃を仕掛ける。好戦的かつわがままで、自分の希望が通らないとすぐに感情的になる。感情的になってみせれば自分の希望は何でも通ると思い込んでいる。


 そんな彼女に、私はこれまで、多くのものを奪われてきた。


 たとえば新しいドレス。

 私が買ってもらったものでも彼女が欲しがれば彼女のものとなってしまう。


 たとえば友人から貰った誕生日プレゼント。

 貰ったのは私なのに、彼女が羨ましがれば親が口出ししてきて、譲るしかなくなってしまう。


 自分で作って綺麗にできたクッキーまで没収されたこともある。


 彼女自身が厄介なのはもちろんだが、親まで彼女の味方をするという点がさらに厄介なのだ。


 両親はずっと妹の機嫌取りに必死。

 大人なのに娘の言いなりになって恥ずかしくないのだろうか。



 ◆



「ねーえ、お姉さま! 婚約者様のことで話がありますの、ちょっといいかしら?」


 そして今、妹からそんな声をかけられた。


 今度は婚約者を奪う気だろうか?

 なんとなく予想はできるし、そうなってももう驚きはしない。


 その後、妹に連れられて両親のところへ向かった。


 そこでは父親と母親が待っていて。


「悪いが、おまえとアーレンくんの婚約は破棄とすることになった。で、婚約破棄後、アーレンくんとは妹が婚約することとなる。急なことで悪く思うが、許してくれ」


 父親はそう言ってきた。


 やはりか。

 またそうなってしまうのか。


 何とも言えない気分だ。


「お姉ちゃんだろ、譲ってやってくれ」


 ただ、婚約者アーレンのことは実はあまり好きでないので、そういう意味ではラッキーと言えるのかもしれない。


 いつも私のものを奪っていく妹。平常時であれば不愉快極まりないが、状況によっては救世主にもなりうるというもの。今回は後者に近い。


 なぜなら、アーレンもかなり性格が悪いから。


 彼はとにかく男尊女卑。

 男こそが神であり女はそれに付き従うために生まれてきた存在と思い込んでいて、妻となる人には絶対的な忠誠を求めると主張している。


 外ではわりと人当たりが良いのだが。


 婚約者に対してはああだこうだと注文をつけてくる。


「そうですね、分かりました」


 私はこう返す。


「ありがとう! お姉さま!」


 ご機嫌になる妹。


「幸せになってね」

「ええ! ありがとうお姉さま! うふふ、お姉さまと違ってお似合いな二人になれますわ」


 アーレンの婚約者という座くらい譲る。


「お父様、これを機に家から出ていっても構いませんか?」

「何だと!?」

「社会のことを学びたいのです」


 すると両親は顔を見合わせて。


「良いだろう」

「気をつけて行ってちょうだいね」


 こうして、どさくさに紛れて家から出ていく許可を得られた。


 その日の晩、少し水を飲みたくなって自室から出た私は、両親が私について話しているところを見てしまう。


「あの長女、やっと出ていきそうだな」

「そうね、鬱陶しかったから嬉しいわ」


 あぁ、そんなことを思っていたんだ……。


 怒りも悲しみも胸の内にしまっておく。


 でも……辛いな、ちょっと。



 ◆



 それからすぐに私は家を出た。


 両親は笑顔で見送ってくれたけれど、正直、嬉しさなんてまったくなかった。

 だって私はもう二人の本心を知ってしまっている。

 だから笑顔には騙されないし、見送ってもらえた嬉しさも取り戻すことなんてできない。


 ただ、良いこともある。


 これからは私の人生。

 私のために生きてゆける。


 きっと辛いこともあるだろう。


 でも、妹に奪われるだけの人生からは逃れられるのだ。


 良いこともあるのだから、前を向いて生きようと思う。



 ◆



 私が都市部に移り住んでから、早いものでもう数年が経つ。


 私は今、一人の青年と同居している。


 二人で過ごすには若干狭い部屋だが、彼といられる時間はとても尊い。


 何より妹に奪われない。

 それが嬉しい。


 私が手にしたものは私のもの、そんな当たり前の保証さえこれまではなかったから。


 私はこれからもこの場所で暮らすと思う。というのも、今の暮らしはとても快適なのだ。愛する人がいて、誰にも馬鹿にされる傷つけられず、奪われ続けることもない、そんな暮らし。とても裕福かというとそうでもないけれど、でも、暮らしの中のちょっとした幸福を抱き締めていられるという幸せは確かに存在している。


 もう過去には戻らない。


 前だけを見据える。

 未来へと進む。


「今日の夕食、どうする?」

「えーと……僕が作るよ」

「本当に? いいの? 本当に言ってる?」

「もちろん」


 この幸せは誰にも渡さない。



 ◆



 その後、噂で妹とアーレンについて聞く機会があった。


 二人は婚約したそうだが、いざ婚約者同士になってから妹は徹底的に虐められたそうだ。彼女を虐めてきたのは、アーレンもそうだが、彼の親もそうだったそうだ。特にアーレンの母親は妹のことを嫌っており、彼女の派閥である使用人まで巻き込んで陰湿な虐めを繰り返したらしい。妹は味方がいない状況に陥って。しまいには、姉から婚約者を奪うような女、とまで言われ、蔑まれ傷つけられ続けたとのことである。


 まぁ一部は事実でもあるが……。


 で、妹は心を病んでしまって。


 不眠に悩んでいたある晩、突然、自ら死を選んだそうだ。



◆終わり◆

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