愛し合っているから君は消えてくれ、ですか。分かりました。では私は貴方の前から去って生きていきます。
婚約者プルトーから彼の自宅へ呼び出されたので急ぎめで向かったところ、そこには彼と知らない女性がいた。
「急で悪いな」
「いえ。どういったご用でしょうか？」
女性を連れているなんて……嫌な予感しかしない。
まさか、アレ、ではないのか？
「君との婚約、破棄することにした」
やはり、か。
ここは当たってほしくなかったけれど、どうやら私の予感は当たっていたようだ。
予感というのは当たってほしくない時ほど当たるものだなぁ、などと、どこか他人事のように考えてしまっている私がいる。
「俺はこれから彼女と生きていくことにした」
「すみませんねぇ～？ 奪うみたいになってしまってぇ～。わたし、そんなつもりはなかったんですけどぉ～、でもわたし昔から男の人に惚れられてしまうたちでぇ。婚約者さん、本当にぃ、ごめんなさいねぇ～」
女性はいちいち鬱陶しいような喋り方をする。
プルトーはこんな人が良いのか……。
「ま、そういうことだ」
「何となく理解できました」
「そうか、なら話は早い。愛し合っているから君は消えてくれ」
愛し合っているから？ 随分雑な理由だ。それがまともな婚約破棄の理由になると思っているのか？ だとしたら幼稚過ぎる。婚約は子どもの頃の遊びとも恋人とも違う、それを理解していないのか？
とはいえ、今の彼に何か言ってもきっと無駄だろう。
「分かりました。ただし……慰謝料は支払ってもらいますので」
「あぁいいさ。ちょっとくらい払ってやる。愛のためなら些細な犠牲を払うことは厭わないんだ、それが真の愛というものだ」
こうして私とプルトーの関係は終わった。
父親の知人のそういうことに詳しい人がいたこともあって、婚約破棄後、私はプルトーから慰謝料を支払ってもらうことができた。彼が逃げ回りはしなかったということもあり、無事、きっちりともぎ取ることができた。
◆
その後、私は、本家ではないが王家の子孫である男性と結婚した。
彼と出会ったのは、風邪をひいてしまった親戚の代わりに参加したお見合いパーティー。
そこで出会った私たちはすぐに惹かれ合って。
あっという間にそういう話になっていって。
戸惑うほどあっという間に婚約することとなり流れるように結婚にまで進むことができた。
今、私と彼は夫婦である。
本家ではないが王家の子孫、と言うと、少々難しい家柄のようにも思うけれど……案外そんなことはない。
本人が気さくで温かい人なので、接していて困ることはほとんどない。
彼とならきっと幸せになれる。
迷いなくそう言える。
ちなみに、プルトーとあの女性はというと、結婚後女性の隠し事がばれたことで関係が終わったとのことだ。結婚から数ヶ月で離婚となってしまったため、プルトー側がかなりもった結婚式などの費用はほぼ無駄になってしまったそうだ。
でもそれで良いのだろう。
彼の発言によれば……愛し合っていたのだから。
愛し合っているから君は消えてくれ、とまで言ったのだ、彼がどうなろうがどうでもいい。
◆終わり◆
