ある国の王女だった私は婚約して向かった先の国で虐められました。……これまで我慢してきましたが、親を侮辱されたらもう黙ってはいられません。
私はとある国の王女。
国同士の関係を良好にするためという一種の使命のようなものを帯びて、隣国の王子ダルマンと婚約した。
でも私は嫌ではなかった。
確かに、あまり知らない人と結婚するということには抵抗がある。夫婦になるとなればその先もあるわけだし。どうしても心理的抵抗はあるというものだ。が、それもまた私の役目で使命と思えば、生まれ育った国のために頑張れると思った。国のためなら、国の人々のためなら、私は他国の王子のところへだって嫁げる、と。
だが、婚約してダルマンの国へ行くと、私は酷くいじめを受けた。
まず侍女らが私を良く思っていないようで。すれ違うたびにくすくす笑われ、ダサい国の女と悪口を吐かれもした。時にはドレスを破かれたりつまづいて転倒するよう仕掛けられたりとそういう実際に被害の出るような嫌がらせをされたこともある。
ダルマンはそれを見て見ぬふりしていた。
そして、ダルマンの母親である王妃もまた私を嫌っていて、会うたび「我が家に貴女みたいな王女が入れるなんておかしな話よね」「早く消えればいいのに」などと言ってきた。
けれども私はそれらの嫌がらせに耐えてきた。
よそから来たから仕方ない部分もある、そう思って。
しかし。
ある時父と母の写真に酷い落書きをしたものをプレゼントとして大量に渡され、その瞬間我慢の限界が来た。
どうして私がこんな目に遭わなくてはならないの!?
何もしていないのに!
こちらは彼女らに嫌な思いをさせるようなことはしていないのに!
もう耐えられなかった。
私はダルマンらがいる城を出て、生まれ育った国にある城へ帰った。
城へ帰った私は、父に、ダルマンの周囲が私を虐めさらには父母を侮辱するような行為をしてきたことをすべて明かした。それから、婚約を取り消すことを希望していると伝えた。
「何だと!? 許せん! 悪どい奴らめ!」
「ごめんなさい本当はこんな風にはしたくなった……でも、お父様、私はもう我慢できないの」
「我慢などしなくていい。婚約は破棄としてやる。あいつら、絶対の絶対の絶対に許さんぞ!!」
その後、父が話をつけてくれて、私とダルマンの婚約は破棄となった。
だが両国の関係は改善せず。むしろそこから悪化していってしまって。いつしか開戦に至ってしまう。
けれどもその結果我が国は勝者となった。
多くのものを得て。
戦いは無事終わった。
被害はなかったわけではないけれど、でも、最小で済んだ。
ある意味では諸悪の根元とも言えるダルマンの母親は私の父の命令で拘束された後拷問刑に処されることとなり。死刑とはならなかったが、それよりも惨い目に遭うこととなったようだ。いや、今も、である。現在進行形で、彼女は拷問刑に処されている。
そして、王族の近くで働いていた侍女の多くも拘束され、色々な方法で可哀想な最期を迎えた。
国王は人々の前で処刑され、王子ダルマンも父から数日にわたって説教を受けた後に処刑されたそうだ。
ただ、国民だけは、殺められはしなかった。
罪はそこまでないという判断だったからだ。
もちろん国民も多くのものを失っただろうが、我が国は、罪のすべてを彼ら彼女らに押し付けるようなことはしなかった。
◆
あれから数十年、大陸でも一位二位を争う大国となったこの国の王は私だ。
これまで女性が王となったことはなかったのだけれど、前例主義者たちを打ち破り、私が国王となった。
私はこの国のために生きてゆく。
生まれた地、生まれた国、そのために身を捧げる。
ちなみに、結婚はしていて、子もいる。
◆終わり◆




