婚約を望んだのはそちらでしたよね? なのに他の女と頻繁に遊びいちゃつくなど話になりません。婚約は破棄いたします。
「愛している! 君のことを! これまで恋とか愛とかよく分からなかったが……君に出会って分かった! 愛とはこの感情のことを言うのだと!」
あれは今から半年ほど前。
ある晩餐会で知り合った彼ボーデンがそんなふうに言って婚約を求めてきた。
「君と! 共に歩みたい! 婚約してほしい!」
いきなり凄い勢いで言われたので怪しいとしか思えず、私はあまり乗り気にはなれなかった。しかし父がすっかりその気になってしまって。父は大喜びで私と彼の婚約を決定。そうして私は彼と婚約者同士になった。
婚約してからもしばらくはボーデンは物凄く私のことを気にかけてくれていて、会うたびに「君と出会えて嬉しいよ! 毎日神様に感謝してる!」とか「死ぬまでずっと一緒にいよう!」とか、こちらが恥ずかしくなってしまうようなことを言ってきていた。
だが、それから二ヶ月ほどが経過した頃、彼はなぜかすっとそっけなくなり。違和感が大きかったので調査員を宿って調査してみたところ、彼に仲良くしている女性がいることが判明した。彼と女性は少ない時でも二日に一回は会っており、また、二人きりで長時間いちゃついていることもあるとのこと。
私は婚約の破棄を決めた。
とはいえすぐに切り出すのは愚策。
しばらくは証拠を集める。
そして……。
「ボーデン、話があるの」
「何だい?」
「あなた……仲良くしている女性がいると噂を聞いたけれど、それは事実?」
敢えてぼやかした問いにしておく。
「え? まさか! 僕は君一筋だよ!」
「そう……」
「そんな噂は嘘! 幸せな僕らを陥れようとしているんだよ、きっと」
私は証拠写真を出す。
「なら、これは何?」
その写真には、ボーデンが自室に女性を連れ込みいちゃついている姿が写り込んでいる。
急激に青い顔になるボーデン。
「あ……そ、それ、は……そ、そそそ、その……違うんだ!」
「違う?」
「それは無理矢理入り込まれたんだ! 女が無理矢理入ってきて!」
「でも、一度じゃないわよね」
他にも証拠となる写真はある。
それを徐々に出していく。
ボーデンはただ狼狽えることしかできない。
「あなたとは生きない。……さようなら、婚約は破棄よ」
私は彼にはっきりとそう告げた。
私だってできるなら幸せになりたかった。上手くいくことを望んでいた。誰だってそうだろう、今ある場所で幸せを掴みたいと思うのは普通の感情だ。
でも無理はものは無理。
諦めるしかないことも、時にはある。
◆
あれから一年三ヶ月が経った今日、私は結婚式を迎えた。
結婚相手はボーデンではない。
しかし嫌な相手というわけではない、むしろ良いくらいの相手だ。
私の夫となるのは、資産家の息子。
裕福な家で生まれ育った彼だが、母親が厳しかったこともあってかわがままなところはない。気難しさもなく、基本的には大抵のことに寛容な人だ。
私は新たな道への第一歩を踏み出す。
今度こそ、幸せになろう。
ちなみに……。
ボーデンはあの後『婚約者がいるのに他の女と遊び回っていた男』と皆から思われるようになったことで評判を大きく下げ、社会的な地位や良い評価や信頼をほぼすべて失うこととなったそうだ。
で、そうなったことで女からも見離され捨てられたらしい。
でも自業自得だ。
それが彼の選んだ道なのだから。
◆終わり◆




