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婚約破棄を告げられて、雨の中泣いていたら。
婚約破棄を告げられて、雨降る中で泣いていた。
今の空は私の心に似ている。
上空、遥か彼方、そこに広がる厚い灰色の鏡。
まるで私の心を映し出しているかのよう。
躊躇など欠片もなく降り注ぐ雨粒は私の身すべてを濡らしてゆく。
今は濡れても構わない。
いや、気にする余裕がないのだ。
そんな時。
「あのー……ちょっと? 大丈夫ですか?」
誰かに声をかけられ、振り返る。
そこには見知らぬ青年の姿。
「取り敢えず雨に濡れないところへ行きませんか、風邪引きますよ」
「わたし、は……放っておいてください」
「駄目ですよ、そんなの。僕が信頼できないなら一緒にでなくても構いませんから、どうか、早く濡れないところへ」
そう言って、去ろうとする彼。
その服の裾を掴んだ。
「……え?」
「すみません! あの! 少しだけ、えっと……少し、だけ」
彼に聞いてほしい。
訳もなく思った。
「話……聞いて、くれませんか?」
この痛みを誰に聞いてほしい。
そこに救いがあるか分からなくても。
「……もちろん。聞きますよ」
彼はそっと微笑む。
雨上がりの虹のように。
◆終わり◆