愛していると言っていたのに、それは嘘でした。
私の婚約者である金髪碧眼の彼ルートニックは、いつも笑顔で「愛しているよ」と言ってくれていた。
彼は私の前では嫌な顔など一切しなかった。
いつも穏やかだった。
だからとても優しい人だと思っていた。
でも、そんな言葉を信じていた私が馬鹿だったのだ。
その日、私は見てしまった。
「あ……もう、そこ、まで……」
「好きにさせてくれ」
「どうし、っ、あ……だ、め……」
ルートニックは身体の関係になっていたのだ。
私ではない女性と。
何か持っていこうと思って彼の家へ行く前にたまたま立ち寄った店、そのすぐ傍にある薄暗く細い路地にて、いちゃつきの範囲を越えたことをしているルートニックと知らない女性を見てしまった。
そもそもなぜ屋外で……。
なぜだろう、そんなくだらないことを考えてしまう。
その日は冷めたので帰ることにした。
彼の家へは行かないことに決めたのだった。
どのみち彼は家にいないし。
それから私は証拠集めを開始。
いずれ彼との関係を絶つことを前提に動き出した。
彼を信じていた。あのまま信じていたかった。もしあの場面に遭遇しなければ、後悔のようなものは芽生えるけれど。でも時は巻き戻せない。見てしまったことは事実で、彼と生きていけないという思いも本物。だから、ここからは、私の未来を切り開くために動く。
それから一ヶ月ほどで証拠は十分に集められた。
そしてその日を迎える。
両親と共にルートニックのところへ行って話し合いを開始する。
向こうはまだ何も知らない。
もっとも、真剣な面持ちのこちらを見れば、察してはいるかもしれないけれど。
私とその両親。
ルートニックとその両親。
六人揃っている。
「おたくの息子さんが何をしているかご存知ですか」
私の父が切り出す。
向こうの両親は首を傾げる。
意味が分からない、とでも言いたげな顔。
「これですよ!」
怒りを感じた父が写真を取り出した。
ルートニックが私ではない女性と屋外でいちゃつき以上のことをしているところを撮影した写真。
これは私が初めて知ったあの日とは別の日の写真だ。
ただ、私が雇った調査員が撮影してきてくれたものなので、確かなものである。
「こ、これは?」
「あなたの息子さんでしょう」
「なぜこんな……」
向こうの父は何も知らなかったようで戸惑っていた。
それからもしばらく話は続いた。
こちらは集めた証拠を次々突きつけて攻めていく。
最初は曖昧なことを言っていたルートニックだったが、やがて、すべてを受け入れた。
あの女性は友人の知り合いの女性で、もともとはグループで遊んでいたのが次第に親しくなり、いつしかああいう関係にまで発展したそうだ。
「そういうことなので、娘は渡せません。婚約は破棄とさせていただきます」
最後、父ははっきりと言う。
「慰謝料の支払いも……お分かりですね」
この日、私とルートニックの関係は終了した。
もう顔を合わせることはない。
でも後悔はない。
今はすっきりした心持ちでいる。
愛している、は、嘘だった。
でももういい。
◆
あれから数年、私は今、領地持ちの家の息子と結婚し夫婦となっている。
彼との出会いは叔母の紹介。
けれども今も穏やかに夫婦として生きていることができている。
そうそう、そういえば。
正式な婚約者であった私を失うこととなったルートニックは、あの女性と結婚しようと動いたようだが、女性には逃げられてしまったらしい。
ルートニックは女性を大事に思っていても、女性はルートニックを大事には思っていなかったようだ。
そのことに気づいたルートニックは毎日泣き暮らしているそうだ。
でもすべては彼が余計なことをやらかしたから。
それがなければこんなことにはならなかった。
自業自得、それだけ。
◆終わり◆