妹が婚約者を奪ったので、二人の結婚式で二人がしてきたことを暴露することにしました。
私にはオールベストという婚約者がいたのだけれど。
「お姉さまには惜しいお方よね! ってことで、オールベスト様は私が貰うから!」
妹イレネがある日突然そんなことを言ってきた。
しかもオールベスト本人を隣に置いている。
「すまない。でも俺は本心に嘘をついては生きられない。ということで、君との婚約は破棄とさせてもらう。そして、イレネと改めて婚約する」
「え……」
「君よりイレネの方がずっと可愛いし魅力的だ。初めて喋った晩に深い仲になったほど、だよ。君の妹さんはそれほどに魅力的だったんだ」
婚約者を妹に奪われる。
複雑な心境だ。
赤の他人に奪われるのも辛いだろうけれど、妹に奪われるというのはそれとはまた違ったもやもや感がある。
「そういうことだから! 貰うわね、お姉さま!」
「悪いな、じゃあこれで」
二人は腕組みしながら去っていった。
◆
そんな二人の結婚式には私も招かれた。
もはや嫌みだろう……。
とはいえ花嫁の姉が参加しないわけにはいかない。
たとえ奪われた側だとしても。
そこで私は思いついた。
結婚式にて真実を暴露しようと。
そうして私は準備を進めていく。
◆
結婚式当日、会場には人々が集まり、場は既に熱気に包まれている。
無理もない。
事情を知らない人たちからすれば最高にめでたい日なのだから。
そこで私は暴露した。
「花嫁イレネは、私の婚約者を奪い取ったのです」
会場に広がる何とも言えない空気。
「奪い取られた日の会話の記録、録音が、ここにあります。今からここで流します。皆さん、この祝いの場にて、新郎新婦の言葉をお聞きください」
音声を再生すると、会場内にかなり大きな音量でオールベストの声が流れる。
流れたのは『すまない。でも俺は本心に嘘をついては生きられない。ということで、君との婚約は破棄とさせてもらう。そして、イレネと改めて婚約する』からの『君よりイレネの方がずっと可愛いし魅力的だ。初めて喋った晩に深い仲になったほど、だよ。君の妹さんはそれほどに魅力的だったんだ』だ。
もちろん、イレネの『お姉さまには惜しいお方よね! ってことで、オールベスト様は私が貰うから!』という言葉も流した。
「何これ、サイテーな花嫁じゃない」
「お姉さんの婚約者を盗るとかないわよね……酷すぎ……」
「しかも、堂々と貰うとか言うとか、オールベストさんは物か何かかよ」
「うっそぉ。祝う気なくなったぁ」
酷い音声を聞いた参加者たちは祝う気をなくして会場から出ていった。
イレネはずっと泣いていた。
オールベストも言葉を失って固まることしかできない状態だった。
いい気味だわ。
◆
これは後日知人を通じて知ったことなのだが、イレネはオールベストと一緒に暮らし出してから毎晩のようにあの結婚式の悪夢を見るようになり恐怖のあまり寝られなくなってしまったらしい。で、医者にかかったところ怪しい薬をたくさん出され、それを飲んだことでより一層状態が悪化して。今では一日中ベッドで横になっている脱け殻のような状態だそうだ。
そんなイレネと暮らすことに疲れたオールベストは、複数人の女性とそれぞれ不倫関係を築き、毎晩妻を放っていろんな女性と楽しんでいたそう。しかし、ある晩真実を知ったその中の一人に「あたしだけを愛しているって言っていたのに嘘だったのね!」と襲いかかられ、刃物で刺されて亡くなったそうだ。
ちなみに私はというと、今は都で国旗店を営む男性と結婚し、幸せに暮らしている。
◆終わり◆




