嫌いと言われて婚約破棄されました。悲しいですが、彼のことは諦めて次へ進むことにします。
私と彼は学園の学生だった時代に知り合った。家庭環境が近かったこともあって関わる機会が少なくなくて。何だかんだで婚約することになるところまで話が進んだ。
嫌いだったわけではない。
彼と生きる、それでも良いとは思っていた。
けれども、婚約から数ヶ月が経ったある日、彼がわざわざ私の家へ来て告げてきた。
「俺、色々考えてみたけど、やっぱお前のこと嫌いだわ」
そう言ってから、続ける。
「だから、お前との婚約は破棄することにした」
それはあまりにいきなりで。
私はすぐには言葉を返せない。
まるで、突然出現した嵐が襲いかかってきたかのよう。
脳が話に追い付かない。
「そういうことだから、さ。もう二度と会わない。お前との縁は今日で完全に切れる、そう思ってくれ。じゃな」
彼は私を切り捨てた。
驚くくらいあっさりと。
私は彼のことを嫌ってはいなかった。一応自分の意思もあって婚約した。でも、だからこそ、急な終わりは切なく悲しい。こんな風な終わり方が待っているなんてちっとも思っていなかっただけに、心が痛い。
でも、夫からまったく愛されず生きていくくらいなら、この方が良かったのかもしれないとは思う。
婚約破棄されたというのは悲しく残念なことだ。
揉め事があったわけではないからなおさら。
けれどもそこで立ち止まっていては良いものは何も生まれはしない。
だから、彼のことは諦めよう。
◆
その数ヶ月後、親の知り合いの息子で婚約相手を探している人がいるということで、彼と会ってみることになった。
彼の名はツロスという。
「今日はありがとうございます! 会っていただけ嬉しいです!」
「い、いえ、こちらこそ」
彼は明るさの塊のような人だった。
なぜ相手が見つからないのか不思議なくらいだ。
「今日は色々聞かせてください!」
「はい」
◆
結局私はツロスと結ばれた。
でも、彼は私を愛してくれる。
だから、今のこの状況は不快なものではないし、むしろ嬉しいものだ。
愛してくれる人と生きられる、そんな幸せなことはない。
そうそう、そういえば。
以前私を切り捨てた元婚約者の彼は、怪しい店で知り合った美女に惚れ込み誘われてほいほい彼女の家へついていったところ監禁されてしまったらしい。で、今はそこで、奴隷のような扱いを受け続けているそうだ。そこでの彼の呼び名は下僕、扱いはかなり酷く、人権など欠片ほどもないような扱いをされているとのことだ。
◆終わり◆




