婚約者を妹に奪われました。気分が悪いので二人を見なくて良い場所へ行って生きようと思います。
「お姉さま! あたしたち、愛し合っているの!」
明るい笑みを浮かべてそう告げてきた妹ルル、その隣に立っていたのは私の婚約者であるオブリゲートだった。
「オブリゲート……どうして貴方が」
「すまない、だが、俺は彼女と生きてゆくことに決めたんだ」
「え……」
「だから、君との婚約は本日をもって破棄とする」
唐突に告げられた婚約破棄。
私は言葉を失う。
「ルルさんとの出会いはそれはもう運命的だった。二人はお互いすぐに惹かれあったよ。これはもう真実の愛としか言い様のないもの、誰もこの愛を潰すことはできない……たとえ婚約者だとしても」
「そうよ! お姉さまはもう要らないの!」
「ま、そういうことだ」
こうして私は婚約者を妹に奪い取られたのだった。
◆
どうしてこんなことになったの?
どうして私がこんな目に遭わなくてはならないの?
もやもやしたので、私は家を出ることにした。
私はただ自由が欲しかった。
妹や家族からは離れて、私は私で生きていきたい。生まれた環境などに縛られない道を歩みたい。そして、もう妹から奪われない人生を選びたい。
そんな思いがあって家を出たのだった。
◆
そうして家を出た私は、学園時代の友人であった一人の女性を頼って都へと出た。で、そこで彼女に職について教えてもらって。それによりめでたく私は仕事を得ることができた。それもそこそこ賃金の良い仕事、そう、王族の男性の屋敷の掃除係である。
「本日から、よろしく頼む」
「はい!」
こうして私は、王族の男性の屋敷で働き始めた。
「あたしが掃除係長よ、よろしくね」
「よろしくお願いいたします!」
「じゃ、まずは、仕事内容を教えるわね」
「お願いします!」
掃除の経験は少ないが……条件は未経験者でも良いとなっていたのでその点に関しては問題ないだろう。
これから一つ一つ覚えていこうと思う。
◆
それから一年半、私は屋敷の主である王族の男性に気に入られた。
そして、彼の妻となることとなった。
最初は戸惑いしかなかったけれど、暮らしやすくなるならと私は彼の望みを受け入れた。
幸い彼は王族は王族でも本筋ではない、そこまでややこしいことに巻き込まれることはないだろう。
◆
あれから五年、私は今も、王族の男性と夫婦として穏やかに幸福に暮らしている。
私は今もたまに掃除をする。彼はしなくていいと言ってくれるけれど、ここでは掃除している方がほっとするのだ。最初それだけのためにここへ来ていたためか、今でもそうしている方が気が楽なのである。
屋敷の主の妻が掃除しているというのは少々おかしいかもしれないけれど……。
ま、なにはともあれ、今は彼といられて幸せだ。
そうそう、そういえば、これは先日聞いた話なのだけれど。
ルルとオブリゲートはあの後勝手なことばかりを続けたことで双方の家から嫌われ、徐々に二人の味方をする者は減り、次第に二人ぼっちになっていってしまったそうだ。
今ではもう、二人は、誰からも相手されていないらしい。
また、そんな中でルルがやたらとわがままを言うためにオブリゲートも段々疲れてきたらしく、今では夫婦仲も冷えきっているとのことだ。
◆終わり◆




