風魔法使いの令嬢は婚約破棄されもやもやしたので一人で発散する。~気づいていませんが意外と凄いことになっていますよ~
青緑の髪と瞳を持つ美しい令嬢カンブリア。
彼女は風魔法使い。
つまり風属性の魔法を使いこなすことに長けている。
そんな彼女にも普通の女性らと同じように婚約者がいるのだが――美人かつ有能でも愛されてはいなかった。
「カンブリア、悪いが婚約は破棄させてもらう」
その日、彼女の婚約者であるオポポトロフスはそう宣言した。
オポポトロフスは美男子だ。
凛々しくもどこか柔らかな容姿の持ち主で、女性ファンも多い。
ただ、実際に近づくと、大抵彼のことが嫌いになる。
それほどに彼の匂いは凄まじいものがあるのだ。
まず口が臭く、どぶのような匂いがする。それに加え、鼻や顔の皮膚からは腐敗したような納豆臭。汗の量が多く、その汗は中途半端に乾いたタオルのような香り。
「カンブリア、君みたいな魔法使い女なんて愛せないんだ。だからごめんだけど……俺の前から消えてくれ」
カンブリアは一瞬不快そうな表情を浮かべたが。
「承知しました」
微笑んでそう返し、去った。
◆
カンブリアはもやもやしていた。
基本的には口数が少なく物静かに見える彼女だが、人形ではないし、感情がないわけではないのだ。
彼女も人間だ、一方的に婚約破棄をされた日には複雑な心境にもなるというものである。
「……よし」
彼女は裏山へ行きもやもやを晴らすために魔法を使うことにした。
彼女はそこで術を発動。
誰もいないところなので最大威力を出しさえしなければ魔法を使うことはできる。
「はぁぁ……はあああああああ!!」
風が起こり、すべてが吹き飛ぶ。
落ちていた葉っぱはすべてどこかへ飛んでいった。
「と……とりゃああああああああ! ふぅうううううぅぅぅぅぅぅ……そ、そ、そりゃああああああああ! ふりゅあぁぁぁぁぁぁぁ!」
彼女は雄叫びをあげながら何度も何度も魔法を放つ。
そのたびに多くのものが空へ舞い上がった。
山自体はさすがに飛んではいかないが太い木さえも数本は飛んでいってしまっていた。
「……ふぅ」
やがて彼女は魔法を使うことをやめる。
その時の彼女は晴れやかかつ穏やかな面持ちになっていた。
「さ、帰ろ」
彼女は自宅へ戻る。
その魔法が種となり巨大台風が育っていたことなんて彼女は知らない。
◆
数日後、オポポトロフスが住む村を巨大台風が襲った。
これはカンブリアが使った風魔法がきっかけとなって誕生した普通では発生することのない規模の台風。大きさ、威力、すべてが規格外だ。とはいえその事実を知る者はこの世には一人もおらず。誰もが単なる巨大な台風だと思っていた。
多くの家が破壊されつくし、オポポトロフスは壊れた自宅だった瓦礫の下敷きとなって亡くなった。
この巨大台風は、後百年以上にわたって、この国で最大の台風として認識されることとなる。
◆
それから数ヶ月、カンブリアは良家の一人息子である青年と結婚した。
子どもにも恵まれた。
彼女は周りから期待されていた通り男児を生んだ。
そうして彼女は穏やかに幸福に生きた。
◆終わり◆




