婚約破棄を告げられた帰り道、占い師から「これから驚くようなことになる」と言われたのですが……これは忙しすぎるッ!!
今、私は、婚約者ブルルの家から自宅へと帰っているところだ。
彼に呼び出され何かと思って彼と家へ向かったところ、婚約破棄を告げられてしまった。彼の言葉によれば、私はもう要らないらしい。私よりずっと良い人と巡り会ったとか。新しいおもちゃに地位を奪われた前よく遊んでいたおもちゃみたいな気分だ。
何とも言えぬ心の色で一人道を歩いていると。
「そこのお嬢ちゃん、ちょっといいかね?」
地面に簡易テーブルと簡易椅子を置いているおばあさんが声をかけてきた。
いかにも怪しげな人。
一人でいる時に声をかけられるなんて複雑だ。
悪いことをされなければ良いのだが。
「これから驚くようなことになる」
おばあさんはそう言った。
「驚くようなこと……ですか?」
「あぁそうだよ」
「あの……もう良いでしょうか? 私、急ぐので」
「いいよ。行きな」
「それでは、失礼いたします」
私は急ぎ気味でその場から離れた。
あの占い師だというおばあさんは害は与えてこなかった。
それは幸運だったと思う。
でも、彼女はどうして、わざわざ私に声をかけたのだろう。
それに、これから驚くようなことになる、とは一体……。
何が何だか分からずもやもやしながら帰宅した。
◆
あの占い師の言葉は当たりだった。
実家へ帰った私のところへ飛び込んできたのは、第二王子からの婚約希望。
彼の家臣の話によれば、数年前とあるお茶会にて私を目撃したそうで、その時に私に惚れ込んだそうだ。しかししゃいな第二王子はなかなか話を持っていく自信がなかったらしく、その時には動けなかったのだそう。そうしているうちに私は他の男性と婚約。想いの行き場は消えたかに思われ。だが、私が婚約破棄されたと知って、最後の機会だと思い話を動かすことを決意したらしい。
そして私は第二王子エルリクンと婚約、結婚した。
◆
「こちらの書類なのですが」
「あ、はい! ありがとうございます!」
あれから数年、私は今、第二王子の妻として日々仕事に打ち込んでいる。
この身分は思ったよりやらなくてはならないことが多かった。
とにかく忙しい。
生活の保証はあるけれど、平民の十倍は仕事がある。
「ここへ置かせていただきます」
「すみません! 助かります!」
朝から晩までしなくてはならないことがびっしり。
「あのー、先日言っていた紙ですけどー、できてますー?」
「はい! あ、すぐに渡しますね!」
正直ここまで忙しいとは思わなかった。
もっとゆったり暮らせるものと思っていたのだが。
でも、愚痴を言っていても始まらない。
「取りに参りますー」
「すみません、はい、こちらになります」
「はいー。ありがとうございますー」
「お手間おかけして失礼しました」
「いえいえー」
どんなに忙しくても、これは私が選んだ道だ。
虐めてくる人がいないだけ良いと思わなくては。
「お疲れでしょう、こちらにハーブティーを置いておきますね」
「すみません! ありがとうございます!」
「先日気に入られていた種類のハーブティーをご用意しました」
「あれですか。あれ、とっても美味しかったんです。またいただけて嬉しいです」
ちなみにブルルはというと、あの後窃盗を繰り返したことで罪人となってしまったそうだ。
もっと良い人と巡り会ったと言っていたが……きっとその人との関係もとうに終わっているのだろうな。
◆終わり◆




