人の王に婚約破棄された私は魔王の妻となることに……?
この国の王アダングはわがまま放題で育ってきた人だ。
そして、そこそこ良い家柄の娘である私は、彼と婚約することとなった。
彼がそれを望んだからだ。
でも、いざ婚約してみれば、私は彼に振り回されてばかり。
彼は私をおもちゃのように扱う。
こちらが何かしら意見を言えばすぐに激怒される。
酷い待遇だった。
こんな暮らしがずっと続くとしたら辛い……、と思っていたら。
「おい、お前。言いたいことがあってな。今いいだろ?」
「あ、はい」
「お前との婚約なんだが、本日をもって破棄とすることにした」
「え……」
正直……嬉しい。
わがままで自分勝手で嫌なことばかりしてきて。
そんな人とはさっさと離れたい。
「そうですか。分かりました」
「では城から……いや、この国から、とっとと出ていけ」
彼ははっきりとそう言った。
出ていけ!?
しかも、城からのみならず、国からも!?
意味が分からない……。
が、私は出ていくしかないのだろう。
王たるアダングから言われてしまっては、それに従うほかないというものだ。
アダングに切り捨てられた私は、悲しいことに、城からのみならず国からも出ていかなくてはならないこととなった。
たとえそこそこ良い家に生まれていても、王の指示には逆らえない。
この世には抗える物事と抗えない物事がある。
それは絶対的な理だ。
◆
その後、私は、とある出会いに恵まれた。
生まれ育った国からは出ていかなくてはならないことになった。
王の命令だから仕方なかったのだ。
けれども、国境を越えてすぐの辺りで人と猫と鷹を合体させたような外見の人物に出会い、親しくなって。
「俺たちの国へ来ないか?」
「気が早いですね」
「どうせ行くあてなんてないんだろう?」
「まぁそれはそうですね」
「俺たちの国へ来れば、君は生きてゆける」
少し悩みはしたが、私は、彼が言う『俺たちの国』へ行くことにした。
◆
その『俺たちの国』というのは、魔族が暮らす国だった。で、それまで知らなかったのだが、彼はそこの王だったのだ。つまり、彼は魔王だったのである。
そして私は彼の妻として国に迎え入れられた。
「妻って……本気で言ってます?」
最初は信じられなかったけれど。
でもどうせ行くところもなかったし。
「あぁ」
「えええ……」
飢えて死ぬくらいなら何にでもなる。
その覚悟はある。
当然戸惑いはあるけれど。
「嫌なのか?」
「いきなり過ぎますよ……」
「ま、当分何もしないから心配するな」
「ええ……」
「それでも嫌か?」
「いえ……構いません、私は貴方の妻になります」
◆
あれから数年。
今も、彼の妻として、魔族の国で幸福に暮らしている。
先月には第二子が誕生。
彼との暮らしは順調だ。
そういえば。
アダングが治めていたあの国は滅んだそうだ。
滅びの理由は、王であるアダングがわがまま放題過ぎたことらしい。
彼がめちゃくちゃなことを続けたために国民の怒りが高まり、激怒した国民の力で王家は倒されて、新しい国へと生まれ変わったそうである。
王の悪い行いのせいで国民だけが被害を受けるようなことにならなくて良かった、とは思う。
国民に罪はないから。
でもきっと、私はあそこへは戻らないだろう。なぜなら、魔王の隣で生きているのが何よりも幸せだから。私はここで生きていこうと思っている。それに、人である私を受け入れてくれた魔族のためにも、働き生きたいと強く思っているのだ。
行くあてがなくなった私に居場所をくれた夫に、周囲で見守ってくれた優しく温かな彼らに、恩返しがしたい。
今はその思いだけを抱えている。
◆終わり◆




